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社説・コラム

天風録 『子守歌は平和の調べ』

 ロシアのウクライナ侵攻に終わる気配がない。惨状を伝える現地報道にいたたまれぬ思いを繰り返し、離れた日本でも、いつしか心に疲れがたまり出す。心理学の言葉で「共感疲労」と呼ばれる▲そんな心を平和の調べで癒やせないか―。茨城県つくば市できょう、「第1回世界のつくばで子守唄(うた)」と題したコンサートがある。「世界の」という形容は大げさではない。人口25万人の街で在住外国人は約1万人、古里は140カ国・地域に及ぶ▲国際色は、強みだろう。インドやミャンマー、インドネシア、中国、台湾など10を超す国や地域の住民が出演する。歌い継がれ、耳で覚えた子守歌を現地の言葉で披露する▲交流がてら舞台の準備を進める中、気づきがあったという。ミャンマーで戦後にヒットした曲「この歌が終わる前に」も中国でかつて大流行した「祈り」も、実は「竹田の子守唄」が元歌だった。まさしく「歌は国境を超える」を地で行く話である▲舞台に立つ人、集う人の胸に、かすかな祈りもよぎっているに違いない。「戦場に子守歌が流れ、戦火がやんでくれないものか…」。その視界には入っていよう。きなくささが増している、足元のアジアも。

(2023年7月1日朝刊掲載)

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