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連載・特集

安倍元首相銃撃1年 岸田政権のいま <上> 首相の姿勢

 安倍晋三元首相が銃撃事件で死去して、8日で丸1年となる。憲政史上最長の政権を築き、退任後も強い影響力を持った安倍氏の急死は、岸田文雄首相の政権運営に何をもたらしているのか。中国地方選出の与野党議員は政権の今をどう見ているのか。東京・永田町の動きを追った。

防衛強化 保守派意識も

最大派閥へ配慮にじむ

 「元総理の数々のご功績を礎として新しい時代を切り拓(ひら)いていく決意だ」。岸田首相は6月30日、中国新聞の質問に書面で答えた。内政外交や安全保障などで安倍氏の路線を引き継いだ面や、自らの成果をつづり、とりわけ防衛力の整備については「元総理から想(おも)いを受け継いだ」とした。

 首相は、かねて護憲で穏健路線を取る「ハト派の代表格」とみられてきた。率いる自民党岸田派(宏池会)が、竹原市出身の池田勇人元首相を中心に1957年に結成した派閥で「軽武装・経済優先」を理念としてきたからだ。それだけに最近の首相の言動を巡っては、いろんな声がある。

失った「後ろ盾」

 経済財政運営の指針「骨太方針」を2022年に公表した際には、安倍氏の考えを反映して「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」との文言を盛り込んだ。先の通常国会では、防衛力増強の財源を確保する特別措置法を成立させた。首相は書面回答でも「着実に取り組みを進めている」と防衛強化の歩みに自信を見せた。

 国のトップであると同時に、平和を希求する被爆地選出の政治家である。「防衛力の強化は被爆者が望む平和主義とは相いれない」と断じるのは日本被団協の木戸季市事務局長(83)。「安倍氏の政治姿勢を継承しているだけではないか」

 こうした首相の姿勢を「保守離れを懸念しながらの政権運営を担わないといけなくなった」と分析するのは法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)だ。「保守層の支持を集めるタカ派の安倍氏の意向をくみ取ることで政権の安定を得てきたが、その『後ろ盾』がいなくなった」と背景を指摘する。

 確かに党内の政権基盤が強固とまでは言えない。岸田政権を支える中心は、党内第4派閥の岸田派(45人)第2派閥の麻生派(55人)第3派閥の茂木派(54人)。一方、21年の党総裁選で首相を全面支援しなかった安倍派は、党内最大の100人を擁する。

「政局で脅威に」

 その安倍派からは最近、「ポスト岸田」に意欲を示す発言が相次ぐ。岸田派のある中堅議員は「安倍派が会長不在でまとまりに欠ける今の状況は好都合だが、100人の勢力が固まれば政局で脅威になる」と警戒する。政権の安定には、安倍派内に影響力を残す森喜朗元首相との良好な関係の維持が必要とみる。

 5月に安倍派の政治資金パーティーに来賓として出席した首相はこう訴えた。「ハトとかタカとかレッテル貼りは意味のない時代になってきた。国民が求めるのは国益のために力合わせ、結果を出すことだ」。安倍派を「まさに岸田政権の屋台骨だ」とも述べ、党内融和を優先する「現実主義」の一面ものぞかせた。(中川雅晴、樋口浩二)

(2023年7月6日朝刊掲載)

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