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社説・コラム

『潮流』 ガンジーさんの胸像

■編集委員 道面雅量

 5月に広島市であった先進7カ国首脳会議(G7サミット)の「置き土産」といったところか。平和記念公園(中区)そばの元安川東岸に、招待国のインド政府から寄贈、設置されたマハトマ・ガンジー像。来日したモディ首相が直々に除幕式に臨み、出席した松井一実市長は「ガンジーさんは市民社会の平和の象徴」と歓迎した。

 設置工事に際し、ひと騒動あったという。当初の設置予定地点は、広島の高校生たちが川底で掘り出した被爆瓦をはめ込んで1982年に建立された「原爆犠牲ヒロシマの碑」の敷地に近接。碑の維持委員会に、着工前日になって調整役の市から連絡が入った。

 同委の大亀信行事務局長は「碑前祭用のテントが張れなくなる」と苦情を伝えたが、市側は急ぎの工事であることを強調。着工当日、現場でやりとりし、10メートルほど南へずらすことで決着したという。

 非暴力・不服従を唱え、「インド独立の父」として知られるガンジー。大亀さんは「その偉大さに全く異論はないし、モディ氏の来日に間に合わせたい事情も分かるが、平和公園の近くにいきなり設置する過程には丁寧さが足りないように感じた。現実のインドは核保有国でもある」と話す。

 広島が「究極的理想」を説くのに好都合な、アピールの舞台にされてしまってはいないか―。核抑止論を肯定しつつ核兵器のない世界をうたったサミットの「広島ビジョン」にも重ね得る問いに違いない。

 美術的な造形物でもあるはずの像だが、台座抜きで高さ約1メートルと、胸像としてはやや違和感を覚える大きさ。台座に刻まれたガンジーの名と、除幕者モディ氏の名の文字は同じ大きさで、肩書の長いモディ氏の方がむしろ目立つ。造形とは、かくも「正直」だ。ガンジーは、憂いをたたえた思案顔をしている。

(2023年7月6日朝刊掲載)

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