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連載・特集

21世紀・核時代 負の遺産 日本編 <35> 六ケ所原子燃料サイクル施設(上) 再処理事業、見えぬ展望 「国策前面」推進に危惧

 本州北端の青森県三沢市から北へ約四十五キロ。下北半島の付け根、太平洋岸に面した六ケ所村の原野に、日本原燃の原子燃料サイクル施設の建設が急ピッチで進む。

 尾駮沼(おぶちぬま)を挟んで七・五平方キロの敷地に張り付くウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、使用済み核燃料からプルトニウムやウランを取り出す再処理工場…。

 「再処理工場は現在86%まで出来上がり、今は配管の漏洩(ろうえい)などを調べる通水作動試験を行っている。その他の施設はすでに完成して操業を始めています」

 六ケ所原燃PRセンターの我妻健館長は、同センター応接室で滑らかな口調で続けた。「再処理工場は来年には配管にウランを通すテストなどを実施し、二〇〇五年七月の操業を目指しています」

 年間約十万人が訪れるというPRセンター。大型模型で各施設を説明する地下一階地上三階の展示を見る限り、何もかもが安全に管理され、心配することなど何もないかのようである。

 「紙もペットボトルも再利用している時代です。ウラン燃料も、再び燃料として使えるものは再処理工場で取り出されます」。館内ガイドの印刷物には、こう記されている。再処理に伴って生まれる高レベル放射性廃液など「核のごみ」を扱う危険については、「ガラス固化体にして三十~五十年間安全に保管されます」と説明する。

 一九六六年、茨城県東海村の東海1号機(九八年に閉鎖)で営業運転が始まった日本の原子力発電。現在は中国電力の島根1、2号機をはじめ全国で五十三基が稼働し、日本の総発電量の約三分の一をまかなう。

 各地の原発から出る使用済み核燃料は、それぞれの原発敷地内の貯蔵プールに保管されているが、多くは満杯状態に近い。その一部はイギリスとフランスの再処理工場へ送られてきた。

 日本でも、動燃(現核燃料サイクル開発機構)の東海再処理工場が八一年に稼働し、これまでに約六トンのプルトニウムを生産。一部は新型転換炉「ふげん」(福井県敦賀市)や高速増殖原型炉「もんじゅ」(同市)で使用されてきた。

 「六ケ所の再処理施設の処理能力は年間八百トンウラン。百万キロワット級原発であれば、約三十基分の使用済み原子燃料を処理することができます」と我妻さん。再処理技術についても「国内はもとより、実績のあるフランス核燃料公社(COGEMA)の技術などを導入している。今はそのフランスから四十人ほどの技術者がやってきて働いています」と、国際的なプロジェクトに胸を張る。

 我妻さんから原子燃料サイクル施設についての概略説明を受けた後、東北電力から出向中の森春美広報課長の案内で、各施設を視察した。

 カナダなどから購入した天然六フッ化ウランを3~5%に濃縮するウラン濃縮工場。十年は連続運転が可能とみていた遠心分離機のひとつのラインが二〇〇〇年四月に八年間でダウンした。このためウランの濃縮役務作業量は年間千五十トンから九百トンに落ちた状態が続く。

 再処理工場には、使用済み核燃料からプルトニウムやウランを取り出す工程だけでなく、その際に出る高レベル廃液のガラス固化体処理施設やその保管設備も含まれる。その施設も併せて建設中である。

 白い外壁に青い線が入った高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの建屋。地下の貯蔵ピットには、フランスから戻った六百十六本のガラス固化体がすでに保管されている。「現在の保管容量は千四百四十本。最終的にはその倍の二千八百八十本にする」と森さんは言う。

 増設によって仏・英に委託の再処理分の高レベル廃棄物がすべて返還されても保管できるというのだ。

 一方、新たに年間八百トンの使用済み核燃料が再処理されると、約千本のガラス固化体が毎年増えることになる。国の方針は、最終的には三万本まで収容できる設備を六ケ所につくり、その後はまだ決まらぬ「最終地層処分地」へ持ち出すというものである。

 再処理工場の付帯設備のひとつである使用済み核燃料の貯蔵プールは、加圧水型と沸騰水型、両用型とすでに三槽が完成。九六年以降これまでに各地の原発から六百トンが持ち込まれた。

 ところが、中央の加圧水型のプールの側壁からわずかに水漏れが起きているのが今年二月に判明した。「今は加圧水型燃料を両用型のプールに移し替え、漏洩個所や原因を調査中」と森さんは説明する。

 建設計画には、昨年八月に電気事業連合会が、青森県と六ケ所村に立地要請したウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料加工工場もある。原子燃料サイクル施設として、八四年の立地要請には含まれていなかったものだ。

 青森県では「慎重に審査中」(蝦名武商工観光労働部長)とは言うものの、この施設がなければそもそも使用済み核燃料の再処理計画は成り立たない。

 再処理の当初の目的は高速増殖炉でプルトニウムを燃やし、「無限のエネルギー」を得ようとしたものだった。だが「次世代を担う原発」として多くのプルトニウムを使ってきた「ふげん」は、国の方針転換で来年には廃炉となる。肝心の「もんじゅ」も、九五年十二月に起きたナトリウム漏洩事故以来運転はストップしたままである。

 核兵器製造や核拡散にもつながりかねないプルトニウム。それだけに国際監視の目も厳しい。

 「余剰プルトニウム」を減らすにはどうするか―。その対策として生まれてきたのが、一般の軽水炉原発でMOX燃料を使うという「プルサーマル計画」なのだ。国の計画では二〇一〇年までに、十六~十八基の原発でMOX燃料を使用する方針である。

 しかし、実施予定に上がっている関西電力の高浜原発(福井県)や東京電力の福島第一原発、柏崎刈羽原発(新潟県)では、MOX燃料を製造した英国核燃料公社(BNFL)のデータ捏造(ねつぞう)問題や知事、住民の反対などで実現できないでいる。

 果たして計画通りに実施できるのか?

 青森県内での取材の帰路東京に立ち寄り、経済産業省・資源エネルギー庁でその点をただした。

 「もちろん、やります」。核燃料サイクル産業課の奈須野太課長補佐は断固とした口調で答えたものだ。「世界のウラン資源は七十年と言われている。MOX燃料を使うことで十年から二十年は延命できる」

 青森県の蝦名さんも「まだ八年がある。十分時間はあるし、やってもらわないと困ります」と、もっぱら国や電力会社頼みだ。そこには地元の経済的メリットの代価に「みんなが嫌う施設を引き受けて国策に協力しているのだから…」との思いがにじむ。

 一兆円に達しなかった再処理工場の建設費用は今では二兆千四百億円。稼働後は、ガラス固化体処理などの経費がかさみ、十五年後までの諸費用が一兆七千億円を超えるとの試算もある。増加分は原燃への「再処理委託費」として各電力会社の負担となり、やがては電気料金の値上げとして消費者にはねかえってくる可能性が高い。 再処理事業の経済性の問題に加え、周辺への放射能汚染や工場内での事故など安全性への懸念がぬぐえないのも事実だ。

 多くのヒバクシャを生み、今も放射能汚染にあえぐハンフォード核施設(米国)やマヤーク核施設(ロシア)などの兵器用再処理工場とむろん同一には語れないだろう。だが「進んだ技術を導入する」というフランスの再処理施設も、さらには英国の施設も「アイリッシュ海や北海を放射性廃棄物や化学物質でひどく汚染している」と、アイルランドなど近隣諸国から操業停止を求められているのが実情である。

 弘前市で会った弘前大学名誉教授(産婦人科)で、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)青森県支部顧問の品川信良さん(78)。自らも患者への放射線治療を続け副作用の怖さを知る品川さんは「何がなんでも再処理施設の稼働を」と意気込む国や事業者の姿勢に危惧(きぐ)を抱く。

 「彼らのやり方を見ていると、戦中派の私には『聖戦遂行』を唱え、国民を最後まで戦争に引きずり込んだ戦時中の軍の将校らの姿と重なってきて仕方がない。技術的な問題や、高レベル廃棄物の最終処分地が見当たらないなど将来の展望もないまま『国の崇高な目的』だからと突っ走っているような気がしてならない…」

 老医師は「途中でとどまる勇気を持つことも大切」と訴える。(文と写真 編集委員・田城明)

 1969年5月、新全国総合開発計画が閣議決定され、むつ小川原の広大な地域が大規模工業基地に指定される。土地が値上がりし、多くの地権者が土地を売却したが、その後のオイルショックなどで開発計画は破たんした。

 84年7月、工業基地の土地の一部を利用し、電気事業連合会が青森県と六ケ所村に再処理工場など原子燃料サイクル施設の立地を申し入れる。翌年には村も県も受け入れを表明した。88年に最初の施設であるウラン濃縮工場の工事が始まり、これまでに濃縮工場(建設費約2500億円)をはじめ、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター(約800億円)、低レベル放射性廃棄物埋設センター(約1600億円)がそれぞれ操業を始めている。

 事業主体は全国9電力会社などが出資し、2つの会社が合併して92年に誕生した日本原燃(本社・青森市)。従業員数は約1700人。うち500人余は電力会社などからの出向である。

(2002年6月16日朝刊掲載)

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