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社説・コラム

『記者縦横』 「無限の瞳」首脳も見て

■編集委員 水川恭輔

 5月に広島市であった先進7カ国首脳会議(G7サミット)の期間中、市内のあちこちで7色の折り紙を束ねたロゴマークが目に入った。政府のロゴ選考会座長を務めたのは、ユニクロのロゴデザインなどで知られるクリエーティブディレクター佐藤可士和(かしわ)さん。折り鶴が連想されることを評価したという。

 折り鶴が広島の平和の願いの象徴となる経緯には、偶然にも佐藤さんの母校、成城高(東京都)の生徒が関係している。広島で被爆した千葉亮さん。同高3年で被爆の影響とみられる白血病を患い、1955年に18歳で亡くなった。

 生徒会は当時、救援の輪を広げようと闘病中の千葉さんを撮影していた。無念にも映画「無限の瞳」の完成は死去後だったが、各地で反響を呼んだ。愛知県の高校生は白血病を患う被爆者のお見舞いにと広島に千羽鶴を送り、後に「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんが折り鶴を折るきっかけになった。

 当時のシナリオが残っていることが分かり、関係者を取材して3月に報じた。映画に携わった古手英三さん(86)は千葉さんの無念を胸にサミットを見つめていた。だが、発表された「広島ビジョン」は核抑止論を堅持する内容だった。「落胆しました。核兵器廃絶をしっかり話してほしかった」

 「無限の瞳」は動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開中。回復を願う病床の千葉さんの姿に胸が痛む。核兵器がいかに悲惨なものか、首脳にも見てほしい。

(2023年7月7日朝刊掲載)

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