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社説・コラム

社説 武器輸出拡大 ウクライナ支援とは別だ

 武器を含む防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針見直しに向けて、自民、公明両党が論点をまとめた。

 救難、輸送、警戒、監視、掃海の5分野に該当すれば、殺傷能力のある武器を搭載した装備の輸出を可能とするなど、安全保障政策の転換ともいえる内容が目につく。現時点では実務者協議の中間報告に過ぎないが、看過できない。

 輸出目的として、平和貢献や国際協力に加え、「侵略を受けている国への支援」を明記することも盛り込む。欧米に比べ見劣りするとして、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの武器提供を実現したい自民党側のもくろみが透ける。

 ウクライナ危機に便乗し、武器輸出の緩和を進めるような手法は許されない。別物として切り離して考えるべきだ。

 自公の協議は、昨年12月に閣議決定した「国家安全保障戦略」で、武器輸出の制限見直しが明記されたのを受けて今年4月に着手した。政府、自民党内には当初、5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を前にウクライナへの武器提供を打ち出す構想もあったようだ。

 今回の報告では、積極、慎重の両論を併記し、意見集約は見送った。政府、自民党は、友好国との関係強化や防衛産業の育成を目的に武器輸出拡大に前のめりだが、「平和の党」を掲げる公明党に配慮した格好だ。安保政策の転換は世論の反発を招くリスクがあり、衆院解散の戦略も見据えて結論を避けたとの見方もある。

 これまでの協議の経過には、疑問点が多々ある。とりわけ、殺傷能力のある武器の輸出を巡り、政府が「三原則の運用指針に禁止規定がなく、現行ルールのままでも可能」との新解釈を持ち出したのは理解できない。与党もこれに乗っかるが、過去の経緯を忘れたのだろうか。

 戦後の日本では、1967年に佐藤栄作首相が表明した「武器輸出三原則」に基づき、事実上、禁輸政策を採ってきた。先の大戦を経て平和国家を掲げる立場から、国際紛争を助長する武器輸出国にはならないとの理念があった。

 その後、武器技術供与などの例外を設け、2014年には安倍晋三首相が「防衛装備移転三原則」と言い換えた上で、非戦闘の5分野に限って輸出を容認した。それでも、殺傷能力のある武器の輸出は認めていない。禁止規定がないからといって覆すのは、原則をないがしろにするものだ。

 非戦闘の目的であっても、一度解禁してしまえば、輸出先で紛争に使われたり、第三国に転売されたりする可能性を否定できない。間接的にでも紛争に加担するようなことになれば、人道・復興支援で積み上げてきた信頼を失いかねない。

 与党は秋以降に協議を再開させる。論点を踏まえた政府案の提示を受けて最終的な提言をまとめる構えだ。しかし、重要な政策転換を政府、与党の一部議員による「密室協議」で方向づけるべきではない。国会など開かれた場で、国民的な議論をする必要がある。なぜ今、武器輸出の緩和なのか。憲法との関係をどう考えるのか―。国民の疑問や不安を置き去りに、決断を下すことがあってはならない。

(2023年7月11日朝刊掲載)

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