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社説・コラム

『この人』 「ヒロシマ・アピールズ」ポスターを制作したグラフィックデザイナー 中村至男(なかむらのりお)さん

 摩天楼に迫る人間の巨大な指先は、「核兵器のボタン」を押す為政者のしぐさに見える。人類の愚かさに警鐘を鳴らすかのような作品のタイトルは「人差し指」。あえて具体的なメッセージを言葉に託さず、解釈を見る側に委ねている。

 主催者側から「ヒロシマ・アピールズ」ポスターの制作依頼があったのは1月。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、混迷を深める世界情勢に向き合う中で、核兵器の不使用は「抜き差しならないバランスの中で保たれてきた」と再認識したという。「ピースフル(平和的)なアプローチ」を避け、むしろ「恐怖」を抱かせる緊張感ある作風へとつながった。

 ちょうど作品を手がけていた5月19日。パソコン上でデザインを制作中、手元のスマートフォンでは広島市で開幕した先進7カ国首脳会議(G7サミット)の生中継の映像が流れていた。核兵器保有国を含む各国の首脳たちが平和記念公園で原爆慰霊碑に献花し、頭を垂れる―。歴史的な瞬間に、ヒロシマをテーマに描くことに「本当に心してやらねばと身が引き締まった」と振り返る。

 川崎市出身。少年時代に「銀河鉄道999」などの漫画やアニメに触れ、子どもながらに「絵心を意識するきっかけになった」。今作の巨大な指を縁取る黒く太い線も「アニメ的な表現ですかね。ベースには根付いている」と笑う。社会人になって始めたサッカーが趣味で、J1サンフレッチェ広島の青山敏弘選手のファン。東京都渋谷区に暮らす。(和多正憲)

(2023年7月12日朝刊掲載)

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