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社説・コラム

『潮流』 平和のキャラバン

■報道センター文化担当部長 片山学

 太陽が照り付ける広大な砂漠を、一歩一歩進むラクダの隊列―。先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の首脳たちが核兵器廃絶への思いを原爆資料館の芳名録に記帳した際、背にしたモザイク壁画は、多くの人々が平和への願いを寄せ合い完成させた作品だ。

 「平和のキャラバン・東(太陽)」。被爆者で日本画家の平山郁夫さんが原画を描いた。尾道市瀬戸田町にある画伯の美術館を訪ね、作品に込めた思いや制作の経緯などを聞いた。

 1985年3月に開幕したつくば科学万博の国連平和館が企画した。30号の原画を縦4・8メートル、横6メートルに拡大しタイルに転写。2センチ四方に分割したタイル片を入場者に購入してもらい、名前を刻んではめ込んだ。

 当時の新聞記事によれば寄贈先の広島市でも購入の呼びかけがあった。市民5157人を含む計7万9380人が協力し、完成した。

 幼い娘と平和記念公園を訪れ、タイル片を購入した広島市南区の村井拓夫さん(67)は娘の名前を記した。「成長して見た時に、多くの人の平和の願いを思ってくれると考えた」。G7首脳が壁画の前でペンを執る姿に感動し、とっさに娘に連絡したという。壁画制作に協力した他の人もきっと同じ感慨を抱いただろう。

 首脳のメッセージは近く公園内の国際会議場で公開される。原爆資料館の壁画と対をなす「平和のキャラバン・西(月)」があり、こちらも約8万人が協力した。それぞれに描かれた太陽と月の光の下を歩く隊列は、東と西の人々を表す。困難を乗り越えて歩み寄り、一つの世界を築こうとの思いが込められている。

 壁画が完成したのは冷戦時代。いまロシアのウクライナ侵攻をはじめ、世界で分断が深刻化している。メッセージの公開が、壁画に託された思いを受け継ぎ、平和への歩みを願う機会になるといい。

(2023年7月13日朝刊掲載)

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