×

連載・特集

世界の若者育てて20年 ユニタール広島事務所 150ヵ国6万人以上 活動周知に課題も

 世界の若者や政府職員たちの人材育成を担う国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所(広島市中区)が15日で開設20年を迎える。被爆地にある立地を生かし、これまでに150カ国の6万人以上に広島の復興の歴史を伝え、平和な社会を築くリーダーを育ててきた。ただ、その活動内容が市民に十分知られているとは言えず、いかに活動の輪を広げていくかという課題もある。(久保友美恵)

 原爆ドームが間近に見える広島商工会議所ビル内にオフィスがある。15人ほどのスタッフが研修計画の立案や運営などに取り組む。在宅ワークを含めると約40人が働く。

 2003年7月15日、ユニタールがスイス・ジュネーブの本部、米ニューヨーク事務所に続く3番目の拠点として開所した。社会的起業やデジタルスキルなど6分野の研修メニューを用意。核軍縮を担う外交官や教育事業を手がける女性起業家といった各国で平和や弱者支援に取り組む人に学びの場を提供してきた。

 広島事務所の最大の特色は、研修テーマにかかわらず広島の原爆被害と復興を伝える活動を続けていることだ。6月下旬に中区のホテルであった開所20年の記念式典で、ユニタールのニキル・セス総代表は「恵まれない国から広島を訪れた研修生は復興を遂げた街の力を感じ、心を動かされる。その意味は大きい」と意義を強調した。

 海外から広島に招く研修は新型コロナウイルス禍で一時中断したが、今年に入り再開。2月にはラオスやカザフスタンなど10カ国の政府職員18人が6日間、核兵器を巡る情勢を学び、被爆者の話を聞いた。

 一方、広島県が広島事務所の運営支援などに年約1億円を支出しており、活動への理解を広げる取り組みも求められている。

 19年には県内の企業や個人を中心につくる国連ユニタール協会(中区)が発足した。現在は29社・41人が加入。チャリティー行事や募金活動を通じ、広島事務所の活動を伝えている。

 広島事務所は今後、スポーツを通して市民に活動を伝えたり、学校での出前授業などで国際舞台で活躍する青少年を育成したりする取り組みにも力を入れるという。守田葉子チームリーダーは「地域の課題や解決策を考え、実行できる人を育てるのが重要。地元企業や市民の協力に感謝し、活動を続けたい」とする。

  --------------------

ユニタール広島事務所長 隈元美穂子さん

被爆地復興 途上国の希望に

 ユニタール広島事務所長を2014年1月から務める隈元美穂子さん(54)に活動に込める思いを聞いた。(久保友美恵)

  ―広島事務所の意義をどう感じていますか。
 かつてアフガニスタンの政府職員が研修で原爆資料館を見学した後、広島事務所の窓から原爆ドームと近代的な街並み、豊かな緑を見つめ「広島にできたんだったら、自分の国でもできる気がする」と言った。被爆から復興した広島の街は、大変な状況にある人々に希望を与えることができると実感した。全ての研修の基盤にしている。

  ―地元の市民にユニタールの活動を知ってもらうため、どう取り組みますか。
 これまでも市民向けの公開講座を開いてきた。バスケットボール男子Bリーグ1部の広島ドラゴンフライズとは相互協力の覚書を結んでいる。広島はスポーツが盛ん。スポーツを通じた平和構築を学べる催しをしたいと考えている。

  -地域貢献の活動は。
 小中高校への訪問を増やし、国連の取り組みを伝えていきたい。国連や国際舞台で働きたいと思う若者の育成にも貢献したい。

(2023年7月14日朝刊掲載)

年別アーカイブ