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社説・コラム

社説 米のクラスター弾供与 「非人道兵器」歯止め失う

 ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援で、米国が殺傷能力の高いクラスター(集束)弾の供与を決めた。砲弾不足を補うためで、ウクライナ軍が民間人の巻き添え回避を約束したことを根拠に正当だと主張する。

 だが多くの子爆弾を広い範囲にばらまくため、民間人の犠牲拡大を招いてきた。戦争が終わった後も不発弾による被害が続く。市民を無差別に殺傷し、世代を超えて脅威を及ぼす「非人道的な兵器」である。

 バイデン政権はこれまで、ロシア軍によるクラスター弾などの使用を「戦争犯罪の可能性がある」と非難してきた。ロシアと同じ土俵に乗るべきではない。供与の撤回を求める。

 クラスター弾は一つの親爆弾の中に数個~数百個の子爆弾が詰められた兵器だ。空中で子爆弾をまき散らし、歩兵や戦闘車両に甚大な被害を与える。

 しかも一定程度の不発弾が避けられない。使われた地域では地表に残された子爆弾を子どもや市民が拾った際に爆発。亡くなったり、回復不可能な障害を負ったりする被害が後を絶たないという。

 ウクライナは、自国からロシア軍を追い出すために必要だと提供を求めていた。特に塹壕(ざんごう)攻撃に有効とされる。6月に始めた反攻でロシアの防衛線を突破する切り札にしたいのだろう。

 そうした事情や米国が主張する不発弾率の低さを考慮しても正当化できない。米国はベトナム戦争でクラスター弾を大量に投下し、ラオスなどに残した傷の深さを再認識してほしい。

 ウクライナの戦火がやんだとしても復興の妨げになる。自国で使われるクラスター弾をウクライナの兵士の手に握らせることが許されていいはずがない。

 クラスター弾を禁止するオスロ条約には日本を含む100カ国以上が参加する。米国、ウクライナ、ロシアは加わっていない。国際人権団体によると、ウクライナは既に旧ソ連製クラスター弾を使用したという。

 米国との軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)内から反対の立場の表明が相次ぐ。条約参加国の英国やイタリア、スペインなどでウクライナ支援の結束に影響を与えかねない。

 米国の供与で、非人道的な兵器への歯止めが失われる可能性がある。現にロシアは「同様の破壊手段を使わざるを得なくなる」と対抗措置を明言。プーチン大統領は核の使用をちらつかせる。応酬をエスカレートさせるのは危険だ。

 2度の大戦の反省を踏まえ、生物兵器、化学兵器、対人地雷、クラスター弾の順で保有や使用を禁じる条約が制定された。核兵器禁止条約も2021年に発効した。

 米国の供与は、こうした非人道的な兵器を国際社会として地球上からなくしていく流れに逆行するものだ。

 問題は米国に追従する日本の対応である。オスロ条約発効からの参加国である日本の責任は重い。それなのに松野博一官房長官は「コメントは差し控える」などと述べただけだ。米国に撤回を迫るべきだ。

 同時にロシアへの圧力を強め、非人道的な兵器を使わせない国際世論を高めなければならない。日本が主導し、不発弾処理でも中心的な役割を果たすことが求められる。

(2023年7月14日朝刊掲載)

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