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緑地帯 小桜けい 種を置く⑥

 中国短編文学賞に応募するとき、ペンネームを使おうと決めた。万が一、受賞すれば本名が紙面に大きく載る。記事を読めばわかるが、表に出るのは恥ずかしい。

 名字の小桜はインコの種類からとっている。正確にはコザクラインコという。実家は伝書鳩を飼っているが、小鳥の専門店が本業だ。多くの小鳥がいる中で、なぜ、コザクラインコかというと、親しくなった子の種類だからである。飼ってはいないので、親しいとしかいいようがない。わが家では親しい子をみな「ぴーちゃん」と呼ぶ。

 ぴーちゃんは足が悪くて、残ってしまった子だ。ヒナの時のエサのやり方が悪かったらしい。人懐こくやんちゃな子で、仲良くしてくれた。ラブバードといわれるだけあり、愛情深かった。旅行で数日、留守にすると「どこに行っていた!」とばかりに、かみついて怒る。小さな頭をこすりつけて「寂しかった」のだと主張する。言葉などなくても、気持ちが伝わってきた。鳥にも個性があり、思いがある。人と同じで相性の良しあしもある。

 だが、ぴーちゃんは当然ながら人ではない。小さな体に飛べる羽。高い体温。食べられるものも違う。それから人とは違う目でモノをみているだろう。違う生き物でありながら、通じ合える瞬間は尊い。

 晩年のぴーちゃんは、あまり飛ばなくなった。よく、肩の上で気持ちよさげにまどろんでいた。やがて眠る時間が増えていき、亡くなった。親愛なるぴーちゃん由来の名で、賞をいただけたのがうれしい。 (第55回中国短編文学賞大賞受賞者=広島市)

(2023年7月13日朝刊掲載)

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