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連載・特集

緑地帯 小桜けい 種を置く②

 伝書鳩はどこで放しても、生まれた小屋を目指して戻ってくる。戻れないこともあるけれど目的地は変わらない。今、小説を書かなかった時期を経ながらも、そこに戻ってきたのだと不思議な気持ちになっている。

 初めて小説らしいものを書いたのは高校生のときだ。思いついたあらすじを友人に話した後、「書いてみたら」と言われたのがきっかけである。「なるほど」と思った私は、大学ノートに書いて友人に見せた。面白がってもらえたのが、癖になった。だが、卒業してその友人とも疎遠になり、遠のいた。

 戻ってきたのは30歳を超えたころだ。誘われて広島アンデルセンの「創作童話教室」に通い始めた。当時、佐藤多佳子さんや魚住直子さんの児童文学が好きだった。

 教室では自分の作品を音読し、受講生の感想や童話作家の立原えりかさんの講評をいただくスタイルで、いつも緊張した。けれど、それ以上に感想と講評をもらえるのがうれしかった。ほかの人の作品を読んで、講評を聞くのも面白かった。先生の講評は技術だけではない「書くこと」への姿勢も教えていただけた。受け取った感想や講評を、自分の中に返して考える。深いところで、対話をしている感じだ。そのうち大人向けの小説を書きたくなった。

 ちょうど小説のワークショップの受講者を募っているのを見つけ、応募した。主宰の作家さんは小説の講評の本を出されていて、私のバイブルだった。それから月に1度、広島から東京に通う生活が始まった。 (第55回中国短編文学賞大賞受賞者=広島市)

(2023年7月7日朝刊掲載)

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