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惨禍伝える被爆印鑑 世羅の上田さん 町遺族会に寄贈 母の前夫所有 折れ焦げた状態

 世羅町別迫の上田俊紀さん(76)が、被爆死した母の前夫が身につけていた印鑑を町遺族会に寄贈した。木製の印鑑はケースの中にあっても一部が折れて焼け焦げており、原爆の恐ろしさを伝える。22日にせら文化センター(寺町)である町戦没者追悼式で展示される。(矢野匡洋)

 78年前の8月6日、38歳で被爆死した上田朝登さん(同町別迫)の印鑑。広島市で通信兵として従事していた。原爆投下の数日後、妻のカメ代さん(2002年死去)たちが朝登さんを捜しに行き、遺体から印鑑を見つけたという。

 俊紀さんは「遺体は本人と判断できない状態。今でも身元が分からない遺骨がある中、印鑑があったから、遺骨を親元に持ち帰ることができたと聞いた」。遺骨とともに持ち帰った印鑑は、仏壇で大切に保管してきたという。

 朝登さんを失った上田家はカメ代さんが再婚し、その間に俊紀さんが生まれた。血のつながりはない俊紀さんに、両親は丁寧に朝登さんの話を聞かせたという。「私も年を取った。子や孫の代になって、忘れられることのないように」と印鑑を寄贈して記録に残すことを決めた。

 ロシアによるウクライナ侵攻など、今も世界で戦争が続く。俊紀さんは「戦争や原爆はもうなくさないといけない。印鑑を見て、そう感じる方が増えてくれたら」と願う。上田さんと町遺族会は戦没者追悼式での展示後、大田庄歴史館(甲山)で管理し活用してもらうことを希望している。

(2023年7月17日朝刊掲載)

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