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連載・特集

なかえよしを・上野紀子の世界 ねずみくんのチョッキ展から <5> ちいちゃんのかげおくり 1982年、あかね書房

戦争の不条理さを今に

 「ねずみくんのチョッキ展」では、「ねずみくんの絵本」シリーズだけでなく、上野紀子の絵の世界も紹介する。文章を児童文学作家あまんきみこが、絵を上野が担当した「ちいちゃんのかげおくり」は、小学校の教科書にも採用された絵本だ。上野は一つ一つの場面を、鉛筆やパステルで思いを凝らして描いた。この作品は、戦争の不条理さと平和の尊さを今に伝えている。

 また、シュールレアリスムの油絵「少女チコ」シリーズは、作家中江嘉男(なかえよしを)が想像し、上野がそのイメージを具現化した、2人のライフワークだ。黒帽子を目深にかぶった少女・チコは、「宇宙遊星間旅行」(1981年)、「扉の国のチコ」(2006年)の主人公にもなっている。

 なかえと上野がこれまで2人で手がけてきた絵本は、「目には見えない、他者を思いやることの大切さ」を読者に届けてきた。そこには、私たちを想像力の旅へと誘う、優しくあたたかな世界がある。 (東広島市立美術館学芸員 所ふたば) =おわり

 「ねずみくんのチョッキ展」(中国新聞社など主催)は東広島市西条栄町の市立美術館で9月24日まで。月曜休館(祝日の場合は翌日休館)。一般千円、大学生700円、高校生以下無料。東広島市立美術館☎082(430)7117。

(2023年7月15日朝刊掲載)

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