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本願寺広島別院で追悼法要 被爆者・篠田さんに学ぶ 原爆の苦しみ 留学生共感

龍谷大に通う11人 平和のため できること考える

 8月6日の原爆の日を前に、龍谷大(京都市)に通う留学生が本願寺広島別院を訪れ、被爆者の篠田恵さん(91)=広島市中区=の証言を聞いた。ウクライナ出身の2人を含む11人。被爆直後の惨状に心を痛め、大切な家族を理不尽に奪われる苦しみに共感した。核兵器廃絶と平和の実現に向けて何ができるのか、仏教の教えも学びながら意見を交わした。(山田祐)

 広島女子商業学校(現広島翔洋高)2年生だった篠田さん。原爆が投下された日は体調を崩し、建物疎開作業を休んでいた。爆心地から2・8キロの自宅で午前8時15分を迎えた。

 母と弟は大やけどを負った。2人を運ぶための大八車を借りようと、現在の安佐南区にあった親戚の家まで歩いた。「地獄に迷い込んだのか」とまで思ったのがその帰路。皮膚が焼けただれた人たち、死んだ赤ちゃんを背負った女性…。列になって歩いていた。怖くて顔を上げられなかった。

 市中心部に出勤した姉は帰ってこなかった。弟は約2カ月後に亡くなった。

 留学生は広島別院本堂で今月1日にあった全戦争死没者追悼法要に参加し、約100人の門徒や僧侶とともに、篠田さんの13歳での過酷な体験に聞き入った。

 核兵器の恐ろしさをより強い実感を持って受け止めたのが、ロシアの侵攻を受け続けているウクライナの2人だった。ロクソラーナ・オレクシュークさん(23)とテチアナ・ワブリクさん(26)。2人の家族は今も、毎日のように爆撃を受けてシェルターに逃げ込んだり、警報におびえたりしながら過ごしているという。

 オレクシュークさんは「戦争が現実のものとなり、恐ろしさを日々感じている」。ワブリクさんも「核兵器が使われることをウクライナのみんなが怖がっている」と声を落とした。篠田さんの講演を聞き、「これ以上の被害を防ぐため、何ができるか考えていきたい」と話した。

 講演後に別院の会議室で開かれた意見交換会。別の留学生が、篠田さんに「原爆を落とした人たちを許せるのか」と問いかけた。「憎んでいない」という返答に驚きを隠せなかった11人。「戦争とは、殺すか殺されるかの状況に人を追い込む。だから絶対に戦争をしてはいけない」と続けた篠田さんの訴えを、真剣な表情で受け止めていた。

 篠田さんの講演を聞いて涙が出たという米国出身のトミー・イングリッシュさん(20)。「被爆者の体験を直接聞いたのは初めて。平和を考える上で視野が広がった。世界の多くの人に知ってもらいたい」と話した。

争う愚かさ教える共命鳥

 対話に先立ち、広島別院の榮(さかえ)俊英輪番が、平和の大切さを伝える仏教の教えを説いた。

 紹介したのが、阿弥陀(あみだ)経に登場する共命鳥(ぐみょうちょう)。浄土にすむといわれ、一つの体に二つの頭を持つ。互いに憎み合い、片方の頭がもう一方に毒を食べさせる。体は一つなので結局どちらも亡くなる―。「争い合うことの愚かさを教えてくれる共命鳥を、広島別院のシンボルとして掲げている」と話した。

 「和顔愛語(わげんあいご)」の心持ちも挙げた。柔らかな顔と優しい言葉は「それぞれの人が今を大切に過ごすことによって自然と恵まれる」と強調した。各地で紛争が続く状況を踏まえ、「世界中の人々が強い信頼で結ばれ、平和を求める社会になることを願っている」と結んだ。

 ベトナム出身のヴォー・ゴック・タンさん(23)は「平和の実現を目指す上で、共命鳥のエピソードはとても興味深かった。母国の人にも伝えたい」と話していた。

 <メモ>1994年から続く広島別院の全戦争死没者追悼法要。龍谷大は「平和プログラム」と銘打ち、ほぼ毎年留学生有志で参列している。新型コロナウイルス禍のため今回は4年ぶり。11人の出身地は米国、英国、ウクライナ、スペイン、チェコ、ベトナムの6カ国で、2日には原爆資料館を見学した。

(2023年7月24日朝刊掲載)

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