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連載・特集

都心はいま パート6 サミット後の誘客 <5> 地域の個性

住民とともに特色磨く

居酒屋巡り・レトロで吸引

 「こっちは甘いね。これが気に入った」。23日夜、JR横川駅(広島市西区)近くの居酒屋で、ノルウェーからの観光客2人が、近くで学習塾を営む浜崎亨さん(44)の案内で日本酒の飲み比べを楽しんでいた。

 広島県在住の通訳観光ガイドグループ「マイ・トラベル・バディ」が、市内の居酒屋巡りツアーに向けて開いた体験会。ツアーは旅行会社を通し、外国人観光客向けに販売する。浜崎さんもグループの一員だ。グループを運営するマイコンシェルジュ(呉市)の三浦真社長は「本格的に売り出すには、外国人の受け入れに協力してくれる店を集める必要がある。横川は前向きな店が多い」とツアー候補地にした理由を説明する。

 飲食店や商店が集まる横川地区。平和記念公園や商業施設がある中区紙屋町周辺から北西約2キロに位置し、住民は「世界中の人がつながるまち」を目指している。アートやサッカー、ゾンビをテーマにしたイベントに力を入れてきた。

特技を生かす

 横川商店街連合会の星野哲郎会長は、先進7カ国首脳会議(G7サミット)の効果もあり、都心に観光客が増えたと感じる。「地域の人が特技や趣味を生かし、楽しんで取り組んできたことが街の個性や積極性につながっている。観光客にも横川に来てもらいたい」

 地域の特色を生かし、都心の観光客を引き寄せるエリアは他にもある。横川に先行し、新たな観光スポットになっているのがJR広島駅(南区)西側の飲食店街、通称「エキニシ」だ。周囲約300メートルの区画を中心にかき料理店や焼き肉店、バーなど100店以上がひしめく。駅周辺で再開発が進む中、古びた建物が昭和レトロの風情を醸す。

 「観光客が特に目立つようになったのは、新型コロナウイルスが5類に移行した5月上旬から」と語るのは、地元の駅西商業センター自治会の大石令士会長。週末は駅周辺のホテルの宿泊客が目立つ。

 エキニシは2009年に駅東側でマツダスタジアムが完成した頃から、賃料が比較的安い物件を目当てに新たな事業者が集まってきた。野球の観戦客や通勤客が集い、駅に近い観光スポットとして紹介されるようになったという。21年11月の火災で一部店舗の存続が危ぶまれた時期もある。大石会長は「レトロな風情は一度失われたら再建が難しい。商店主で協力して守っていく」と力を込める。

常連客の支え

 安田女子大の戸田常一教授(観光まちづくり)は「観光客を呼び寄せるにはまず地元の人でにぎわう街にすることが重要」と説く。コロナ禍を経験し、観光産業は景気や世界情勢に左右されやすいと事業者たちは痛感させられた。事業を続けるには地域の常連客の支えが欠かせない。

 郊外に大型の商業施設が増え、買い物や飲食を楽しむ若者、家族連れが減った広島都心。観光客をいざなう街になるために、まずは市民が楽しみ、地元の個性に磨きをかけることが一歩になる。(松本真由子) =パート6おわり

(2023年7月27日朝刊掲載)

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