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武家茶 ドイツで伝え30年 上田宗箇流の家元正教授・中本洋世さん 被爆2世 未来への希望発信

 今年、広島市とドイツ・ハノーバー市は姉妹都市提携を結んで40年を迎える。茶道上田宗箇(そうこ)流の家元正教授・中本洋世(ひろよ)さん(53)=広島市中区出身=は30年にわたって、ハノーバー市にある茶室「洗心亭」で指導にあたり、日本文化を広めてきた。これまでの日々と、被爆2世として活動に込める思いを聞いた。(西村文)

 洗心亭は1988年、友好の証しとして広島市がハノーバー市に寄贈した。「茶庭も備えた、ドイツ国内で唯一の本格的な茶室」と中本さん。93年に2代目の講師として現地に渡り、現在は17歳から82歳までの20人を指導している。「着物を着てお稽古したり、茶会を開いたり。茶室を活用して日本文化に親しんでもらっている」

 渡独当初、茶道の稽古に欠かせない「菓子」に頭を悩ませたという。「あっさりした和菓子は抹茶の味を引き立てる。ケーキでは代用できない」。独学で和菓子を作り始め、帰国時には広島の和菓子店で修業も。ハノーバーの市民大学では、和菓子を受講者と一緒に作って「お盆点(だて)」(盆を使った簡略な点前)を楽しむ講座も開く。

 ドイツでは、アニメや武道を入り口に、日本文化に興味を持つ人が多いという。「武家茶である上田宗箇流は、ドイツ人の簡素な美を好む気質に合っているように感じる」とも。

 広島市で生まれ育ち、祖母の勧めで幼少期から茶道を習い始めた。11歳で上田宗箇流に入門。大学卒業時にハノーバーへの派遣を打診され、当初は「数年のつもりで気軽に応じた」。彫刻家のヴィルフリート・ベーレさんと出会い、結婚。現在、20歳の娘と17歳の息子も茶道に親しむ。

 2013年には広島市特任大使に就任。毎年8月6日には、原爆犠牲者を追悼する「献茶」を、空襲に遭ったハノーバーの戦争遺跡でもあるエギーディエン教会で行う。「被爆2世としての使命を感じながら臨んでいる」。自身の母は4歳で被爆し、曽祖母の一家は原爆で亡くなった。

 「ハノーバーから車で10時間の距離で戦争が起きている。身近にもたくさんのウクライナ人、そしてロシア人が住んでいる」。昨年来のロシアによるウクライナ侵攻に心を痛める。原爆以前からの歴史と文化を今に伝える上田宗箇流の茶道を通じて、「戦禍からの復興と、未来への希望を伝えていきたい」と決意する。

(2023年7月27日朝刊掲載)

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