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社説・コラム

天風録 『共命鳥の教え』

 極楽浄土に「共命鳥(ぐみょうちょう)」という名の鳥がすむ。お釈迦(しゃか)様が説いた阿弥陀(あみだ)経に出てくる。体から伸びるのは二つの頭。それぞれが見事な羽毛を持ち、奇麗なさえずりを響かせる▲ある時、この双頭にいざこざが起きる。「自分の方が外見も声も美しい」と。憎み合い、片方の頭がもう一方に毒を盛る。体は一つなので、結局どちらも命を落とすことに。いがみ合いがいかに愚かなことか。他を滅ぼす道は己を滅ぼす道でもある。そんな戒めが込められている▲反戦平和の願いから、シンボルマークに掲げるのが本願寺広島別院である。先日京都から訪れた留学生たちに、お坊さんが共命鳥の教えを説いた。本紙洗心面で記事を見かけた▲そもそもは被爆者の体験を聞く会だった。ウクライナ人留学生は「ロシアによる核兵器使用をみんな怖がっている」と口にした。核兵器は人類を滅ぼす毒だ。被爆証言に続く説法と合わさって、胸に響いたことだろう▲東ローマ帝国に由来する「双頭のワシ」を掲げる国旗が欧州に複数ある。ロシアもその一つで、国章は左右に首を向けている。にらみを利かせての覇権主義でなく、共命鳥の教えにある「共存」の道を探る時と思うのだが。

(2023年7月28日朝刊掲載)

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