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大江さん 原爆文学継承願う 広島文学資料保全の会に書簡 公的機関で保管・公開を

 今年3月、88歳で死去したノーベル文学賞作家の大江健三郎さんが、原爆文学関連資料の保存、継承を求める書簡を、市民団体「広島文学資料保全の会」の土屋時子代表(75)=広島市中区=に寄せていたことが27日、分かった。大江さんは公的機関で保管し公開することを促している。(桑島美帆)

 書簡はA4判の便箋1枚に万年筆で書かれ、封筒には2014年9月30日の消印がある。被爆作家原民喜や原爆詩人峠三吉たちの直筆資料を保全する団体の活動について「重要なお仕事です。お働きに敬意をいだく」と記し、「大切な御資料は、公的な場所に登録した上でパブリックに公表されることをおすすめいたします」とつづっている。

 大江さんが翌10月4日に広島市内で講演するのを前に、土屋さんが出した手紙への返信。土屋さんは原爆文学関連資料を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶(世界記憶遺産)」に登録する活動への賛同を求めたが、当時79歳だった大江さんは自身の資料整理に追われ、「あなた方のお仕事にもお役に立つことはできぬでしょう」と断りも入れていた。

 講演当日、土屋さんは民喜のおいの時彦さん(88)と大江さんに面会し、民喜が被爆直後の惨状を記録した手帳を見せた。すると「ハンカチで口を覆い『すごいですね…』と食い入るように読んでいた」という。大江さんは1965年にノンフィクション作品「ヒロシマ・ノート」を刊行。自ら編集した民喜作「夏の花・心願の国」の解説を手がけ、「生涯の根本に、原爆被災をおいた」と民喜を評している。

 原爆文学関連資料の「世界の記憶」登録を目指している土屋さんは「大江さんが生きていたら核廃絶に逆行する日本の現状を憂うだろう」と語り、書簡について「今こそ原爆文学の力が必要というメッセージだと思う」と話している。

(2023年7月28日朝刊掲載)

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