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社説・コラム

天風録 『ハンパクとエンパク』

 1970年の大阪万博を前に、ちまたでは「ハンパク」という言葉がはやった。当時は学生運動真っ盛り。反体制の芸術家や学生が万博反対を唱えた。略して「反博」▲お上にしっぽを振るのか、と岡本太郎にも非難の矛先が向かう。「なに言ってんだい。一番の反博は『太陽の塔』だよ」。当の本人はこう言って笑い飛ばしたらしい。〈人類の進歩と調和〉を掲げるテーマ館の大屋根をぶち抜き、生命の根源を見つめてみろと、巨像を突き立てた▲2025年に開催される大阪・関西万博のテーマは〈いのち輝く未来社会のデザイン〉。ところが準備を進める万博協会は逆行も平気なようだ。工事従事者の長時間労働に目をつぶって、と政府に要請したという▲会場を彩る海外パビリオンの建設がさっぱり進まない。人手不足に直面する建設業界や参加国との連携不足も指摘される。命輝かぬ突貫工事で建てれば、「反博」になってしまうのでは▲開幕を遅らせる「延博」論まで出始めた。ここは誘致の原点に立ち返ってはどうだろう。誰一人取り残さず、地球にも優しい社会の実現へ万国の英知を集めて、子どもたちに見せる。それを支援する「援博」に知恵を絞りたい。

(2023年7月31日朝刊掲載)

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