×

社説・コラム

社説 NPT準備委 核軍縮の立て直し議論を

 核軍縮・不拡散体制の立て直しを議論する場にしなければならない。

 2026年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向け、第1回準備委員会がオーストリアの首都ウィーンで31日から8月11日までの日程で始まる。

 十分とはいえないまでも半世紀以上、軍拡と拡散の歯止めを模索してきたNPT体制は大きく揺らぐ。再検討会議は15年に続き、前回の22年も決裂。最終文書に合意できなかった。

 忘れてはいないか。NPTは米ロ英仏中の5カ国に核兵器保有を認める代わりに、第6条で核軍縮の誠実な交渉を義務付けた国際的な約束である。

 ところが保有国は核兵器の役割を大きくし、軍拡の口実を与えるような行動を続け、国際社会を不安定に陥らせている。保有国と、その核兵器に依存する国は、現状を認識した上で準備委の議論に臨むべきだ。

 ウクライナへの侵攻で、ロシアのプーチン大統領は核兵器の使用をちらつかせる威嚇を始めた。政治リーダーが道理にかなう判断ができることを前提とした核抑止の危うさははっきりしたはずだ。ベラルーシへの戦術核配備も進め、事実上の核拡散を目の当たりにした。

 直視すべきは、プーチン氏が自らを正当化する理由に、北大西洋条約機構(NATO)の核共有を挙げた点だろう。加盟5カ国に米国の核兵器を配備し有事に共同運用する仕組みで、それと同じだと言うのだ。

 5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で合意した核軍縮文書「広島ビジョン」は、「核なき世界」の実現を掲げながら、米英仏の核保有は防衛のために必要とし、核抑止力を肯定した。ロシアや中国の核政策を批判しても説得力を欠くのではないか。

 G7首脳が原爆資料館で被爆の実態に触れ、原爆慰霊碑に献花したのは何のためなのか。各国は核なき世界への具体の取り組みを示してほしい。

 00年の再検討会議は、核兵器廃絶への「明確な約束」を盛り込んだ最終文書を採択した。積み重ねた合意に立ち返り、保有国に核軍縮の具体的な道筋を求めたい。

 そのためにはやはり、核兵器の非人道性の認識を繰り返し共有することが入り口となる。10年の再検討会議で合意した「核兵器の非人道性への深い懸念」を改めて確認したい。

 加盟する約190カ国・地域のいずれも、ロシアの暴挙に核戦争が起こり得ると危機感を抱いたはずだ。避けるためには核兵器をなくしていくしかない。

 保有国や依存国は、核兵器禁止条約を直視した議論をすべきだ。核廃絶はおろか、核軍縮も進まないNPT体制の限界を踏まえ、非保有国が中心となって成立させた経緯がある。NPT体制を補完する意義をことさらに否定し、非保有国と分断を深めている場合ではない。

 実のある議論を導くためには、とりわけ被爆国・日本の役割は大きい。岸田文雄首相は、禁止条約を「核なき世界を目指す上で出口に当たる重要な条約」と言う。ならば禁止条約と距離を置く政府方針を改めてもらいたい。保有国と非保有国の橋渡しに努め、軍縮交渉の約束を守らせる議論を促す役割を果たすべきだ。

(2023年7月31日朝刊掲載)

年別アーカイブ