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[NPT準備委] 核軍縮 立て直しの道筋は あすウィーンで開幕 広島ビジョンどう影響

 2026年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向け、第1回準備委員会が31日にオーストリア・ウィーンのウィーン国際センターで始まる。5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)後では初の開催。再検討会議が2回続けて決裂し、ロシアがベラルーシに戦術核兵器の配備を表明するなどNPT体制が大きく揺らぐ中、立て直しへの道筋や核軍縮の進展を示せるかが焦点となる。論点を整理した。(宮野史康)

  ■ベラルーシへの核配備

 欧州は今、事実上の核拡散を目の当たりにしている。ロシアのプーチン大統領が3月、同盟国ベラルーシへの戦術核配備を発表。すでに第1弾を搬送し、年内に配備完了するという。

 ロシアは従来、米国が北大西洋条約機構(NATO)の加盟国に核兵器を配備する「核共有」を批判してきた。22年の再検討会議では、NPT違反と断じ、「米国の核兵器は自国内にとどまるべきだ」と訴えている。準備委での主張が、今後の核不拡散議論に影響を与えそうだ。

 一方でNATO側でも、ポーランドのモラウィエツキ首相が今年6月、米国との核共有に加わりたいと表明した。自らの核共有を正当化してきたNATO諸国の対応も問われる。

 ■核兵器禁止条約

 NPT下での核兵器廃絶が遅々として進まない中、17年に国連で採択され、21年に発効した核兵器禁止条約は、核兵器の製造や保有、威嚇を全面的に禁じた。核兵器を持たない68カ国・地域が批准したのに対し、NPTが核兵器保有を認める米ロ英仏中の5カ国や未加盟の保有4カ国、日本など「核の傘」に頼る非保有国は批准していない。

 禁止条約の推進国は「NPTを軸とする軍縮・不拡散体制を補完する」と主張しているが、核保有国や依存国は反発するばかりだ。NATOは7月の首脳声明で「核兵器禁止条約は既存の核不拡散・軍縮の構造と対立しており、NPTを弱体化の危機にさらしている」と言い切った。

 ただ、採択できなかった22年の再検討会議の最終文書案は、制定過程など事実関係だけながら禁止条約に言及していた。核保有国・依存国も無視できなくなっており、準備委でも議論が過熱しそうだ。

 ■G7広島サミット

 被爆地でのサミットで、G7は核軍縮に特化した初の合意文書「広島ビジョン」をまとめた。「核兵器のない世界」を究極の目標に掲げ、核戦力の報告など透明性向上や、兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉開始を提唱している。

 ただ、ロシアや中国の核政策に注文を付けつつ、自分たちの核抑止力を事実上肯定し、米英仏が保有する核兵器は不問に付している。核兵器禁止条約にも言及していない。

 広島ビジョンは核軍縮の前進に貢献するのか、新たな分断を招くのか。外務省軍備管理軍縮課は「ビジョンを土台にして、核のない世界に向けた取り組みを進める国際社会の機運を高めたい」としている。

核拡散防止条約(NPT)
 1970年に発効し、191カ国が加盟する。米ロ英仏中に核兵器の保有を認める代わりに、核軍縮の誠実な交渉義務を課す。他国には核兵器取得を禁じ、原子力の「平和利用」を認める。事実上の核保有国のイスラエル、インド、パキスタンは未加盟。北朝鮮は2003年に脱退を表明した。原則5年ごとに再検討会議を開催。その3年前から毎年、準備委員会を開く。15年の再検討会議は最終文書を採択できず、22年の再検討会議でもロシアが合意に反対し、決裂した。

(2023年7月30日朝刊掲載)

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