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全国被爆者団体アンケート 広島サミット 成果に賛否

 「核兵器のない世界」をいつ見られるのか―。中国新聞社が被爆78年に合わせて実施した全国の被爆者団体アンケートでは、回答した85団体のうち、広島市で5月にあった先進7カ国首脳会議(G7サミット)で核兵器廃絶に向けた成果を見いだせなかった団体が過半数となった。被爆者の高齢化で組織の運営は年々難しくなり、解散も相次ぐ現状が浮き彫りに。一方で、証言活動を続け、2世たちを巻き込みながら運動を次代につなぐ団体もある。(根石大輔、太田香)

ゼレンスキー氏参加「評価」41%

 回答した団体の52・9%(45団体)がG7サミットで「核兵器廃絶へ成果がなかった」と受け止めていた。岸田文雄首相は「大きな意義があった」と強調しているが、過半数の見方は異なっている。理由(選択式、複数回答)は、「核兵器廃絶へのメッセージが不十分」と「核抑止力を事実上肯定した文書『広島ビジョン』の内容に不満」が84・4%で並んだ。

 「成果があった」としたのは36・5%(31団体)。理由として「核保有国を含む首脳が原爆資料館を見学し、被爆者の話を聞いたから」が96・8%と突出し、「世界に核兵器廃絶へのメッセージを発信したから」が67・7%で続いた。

 ウクライナのゼレンスキー大統領の参加は、「評価する」が41・2%(35団体)で最も多かった。「戦争のさなかのトップの行動力と勇気を評価」(三次市原爆被害者協議会)「広島の悲劇が持ち込まれないためにも、ロシアの核威嚇を受けているウクライナのトップの参加には意義があった」(防府市原爆被害者の会)などと、好意的な反応があった。

 続いて「どちらとも言えない」が34・1%(29団体)。広島県被団協(箕牧(みまき)智之理事長)は「和平を目指すべき会合が反ロシアの会合になった」と指摘した。「評価しない」は24・7%(21団体)で、もう一つの広島県被団協(佐久間邦彦理事長)は「広島で武器提供の話をしたのは良くない」などを理由に上げた。

核兵器禁止条約への参加 「署名・批准すべき」95%

 核兵器の保有や使用、威嚇を禁じる核兵器禁止条約について、日本政府が署名・批准すべきだという回答は95・3%(81団体)に達した。「唯一の被爆国だから」「核兵器の恐ろしさを知っている日本こそ参加すべきだ」などの意見が大半を占めた。依然として背を向ける被爆国政府への厳しい視線が向けられている。

 一方、署名・批准を求めなかったのは3・5%(3団体)で「米国の『核の傘』の下にいるから」「憲法9条で平和を掲げているから」などを理由に挙げた。残る1団体は無回答。

 また、禁止条約の締約国会議には、署名・批准していない国もオブザーバーとして参加できるが、日本政府はこれにも後ろ向きだ。「日本政府はオブザーバー参加するべきだと思う」は96・5%(82団体)に上った。

2年で9団体解散

 被爆78年を迎え、各地の団体が活動を継続するのが年々難しくなっている。前回2021年のアンケート以降、少なくとも9団体が解散を選んだ。

 都道府県組織では、石川県原爆被災者友の会が昨年3月、福井県原爆被害者団体協議会が今年5月に解散した。日本被団協などによると、会員の高齢化や会の中心人物が亡くなったのが要因という。

 中国地方5県では、七つの地方組織が活動を終えた。今年5月に解散を決めた世羅西原爆被害者協議会は「新型コロナウイルス禍前の19年を最後に行事を開けず、4年ぶりの総会に出席できる人もほとんどいなかった」と説明する。

 岡山県では県原爆被爆者会新見支部(新見市)が22年3月に解散し、会員は総社支部(総社市)入り。児島支部(倉敷市)も23年3月に倉敷支部(同)と統合した。鳥取県原爆被害者協議会は22年5月に県内の全4支部・分会を併合した。名称も県原爆被害者の会に改めた。

 一方、宮崎県原爆被害者の会は21年3月、高齢化を理由に日本被団協を脱退した。被爆者ではない会員を加え、県組織として総会や自治体への要望などの活動を継続している。

定期的な活動「できている」75%

 各団体は、核兵器廃絶や国による被爆者援護の充実を求める運動の中心となってきた。定期的な活動が「できている」という団体は64団体(75・3%)で、2021年の前回アンケートの67団体から微減した。

 活動内容(複数回答)は、「定例会議」と「学校や地域での被爆体験証言」がいずれも50団体(78・1%)で最多。「核兵器廃絶に向けた署名」48団体(75・0%)▽「慰霊碑の維持や慰霊祭の実施」45団体(70・3%)―と続いた。

 「できていない」と答えたのは21団体(24・7%)。理由(複数回答)として「会員の高齢化」を19団体(90・5%)が挙げたが、「被爆者以外の担い手の不足」を10団体(47・6%)が、「活動資金の不足」を5団体(23・8%)が選んだ。新型コロナウイルスの感染拡大で活動を控えたという団体もあった。

 また、被爆体験証言をしている被爆者がいない団体は22・4%の19団体あった。1、2人にとどまる団体も23・5%の20団体あり、証言活動の継承が課題となっている。

「存続」50% 「解散・消滅」18% 2世や遺族の加入期待

 会員の減少や高齢化が進む中、どうやって組織を維持するか―。50・6%の43団体が「2世や被爆者遺族たちを会に加えて存続させる」との意向を示した。

 「会員の被爆者がいなくなれば解散・消滅させる」は18・8%(16団体)で、「別組織と統合するなどして活動を引き継ぐ」が11・8%(10団体)と続いた。「その他」は17・6%(15団体)で、「現在も2世や協力者を含めた組織となっている」(香川県原爆被害者の会)や「2世と話し合って検討する」(世羅原爆被害者団体協議会)などが理由。「核兵器廃絶の日まで解散するつもりはない」(宮崎県原爆被害者の会)との声もあった。

 「会の内部または外部に被爆2世の組織はあるか」との質問では、「ある」の49・4%(42団体)に対し、「ない」が47・1%(40団体)とほぼ同数だった。「ない」と答えた団体の理由は「つくりたいが担い手がいない」が45・0%で、「必要だと思っていない」の32・5%を12・5ポイント上回った。被爆2世の会員は77・6%に当たる66団体にすでにいるという。

(2023年7月30日朝刊掲載)

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