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社説・コラム

天風録 『大きくなる活字』

 手に持つとずっしりと重い。一升瓶の形をした鉛の塊が原爆資料館に寄贈されたのは7年前。爆心地に近い印刷会社の跡にあったものだ。活版印刷の多くの活字が高熱で溶け、傍らにあった瓶に流れ込んで固まったらしい▲犠牲となった経営者の家族や社員の魂が固まった―。終戦後に復員した遺族はそう信じ、大切にしてきた。逸話を知り、ひとごとと思えなかった。かつて鉛の活字は新聞社になくてはならない大切な存在だったからだ▲原爆で壊滅した中国新聞社は幸い郊外の温品に疎開させていた輪転機や活字一式を使い、自力印刷の復活に挑んだ。本来は1度新聞を刷れば用済みとなり、鋳造し直す小さな活字。1本ずつ拾って再利用し、また刷る▲先人の苦労を映す鉛の活字は本紙では35年前、コンピューター編集に移行して役割を終える。技術の進展に伴い、長い間変わらなかった文字の縦横は時代に応じて拡大してきた。きょうの紙面から、さらに読みやすく▲縦は3・6ミリ、横4ミリ。活字は大きくなっても本紙に込められる願いは変わらない。誰もが安心して暮らせる社会を、そして核兵器のない世界を。読者の皆さんと考えたい重い課題を、あれこれ思う。

(2023年8月1日朝刊掲載)

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