×

社説・コラム

『この人』 放影研の第8代理事長に就いた 神谷研二(かみやけんじ)さん

 放射線影響研究所(放影研、広島市南区)で、長年の懸案や主要な研究が動き出す中、広島大副学長から転じて第8代理事長に就いた。施設の移転、被爆2世のゲノム(全遺伝情報)解析…。いずれも市民や当事者の「信頼」をベースに、重責を担うつもりだ。

 病院にかかることの多い子どもだったという。幼稚園児の頃にはトラックの荷台で遊んでいたところ、突然発進して転げ落ち、頭を打って意識不明になった経験もある。患者として医師と接するうち「医学に興味を持つようになった」と振り返る。

 広島大医学部を卒業後、臨床医を経て同大大学院へ進んだ。そこで放射線によるがん発症のメカニズムに触れたのが転機になった。以降、放射線生物学などを専攻し、同大原爆放射線医科学研究所(原医研)所長などでキャリアを重ねた。

 2011年3月に起きた東京電力福島第1原発事故では、直後から現地に入り、被災者と向き合った。「少しでも不安が減ればという思いがあったが、なかなか科学的な情報が伝わらなかった」。信頼関係を築く重要性を身に染みて実感したという。

 同年7月には福島県立医科大の副学長に就任し、事故の健康影響を調べる「県民健康調査」に従事。ヒロシマの医師としての使命をかみしめながら、広島と福島を往復する生活を続けてきた。被災地での経験を今も心に留めおく。

 趣味は読書で、科学や文化人類学をはじめ「何でも読む」。真庭市出身。広島市東区で暮らす。(小林可奈)

(2023年8月1日朝刊掲載)

年別アーカイブ