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「叙事詩広島」素案か 峠三吉の未公開直筆 発見

 原爆詩人峠三吉(1917~53年)が、晩年に書き残した未公開の直筆原稿が見つかった。「ちちをかえせ ははをかえせ」で知られる「原爆詩集」を出版した52年ごろの原稿で、峠が構想していた壮大な叙事詩に向けた素案だった可能性がある。

 原稿のタイトルは「日本の軍国主義的発展と崩壊 原爆によるエポックと米国による属国化 その中でうごめく国民と、闘う力と。」。わら半紙4枚の裏面に鉛筆でつづっている。

 峠が得意とする叙情詩的な文体で、戦前の峠家の家族だんらんを回想する場面から始まる。やがて子どもや女性たちも戦争に巻き込まれ、「原子力によるみなごろし」の運命が襲う。最後は「日本の軍国主ギは滅んだか、否 滅びはしない」「日本の血と炎は拭われたか、否 拭われはしない」と締めくくる。

 広島大の岩崎文人名誉教授(79)=近現代文学=は「軍国主義に翻弄(ほんろう)された峠家の家族史を軸に8月6日の惨禍とその後を描いている」と分析。「激情のおもむくまま記した印象が強い」とする一方、峠が日本の戦前戦後の歴史を題材に構想していた「叙事詩広島」への素案だった可能性があるという。

 市民団体「広島文学資料保全の会」の池田正彦事務局長(76)が、遺族から託された遺品を整理中に見つけた。短編小説の下書きなど約10点もあり、詳しい調査を進めている。(桑島美帆)

(2023年8月3日朝刊掲載)

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