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社説・コラム

天風録 『バービーときのこ雲』

 米国では作風の対照的な二つの映画が同時公開されると、続けて観賞するブームが時々起こるらしい。今夏は着せ替え人形を題材にした「バービー」と、原爆開発を主導した米物理学者の半生を描く「オッペンハイマー」である▲ファンはSNSで、両作品の合成画像を投稿して盛り上がる。その中にはバービーと原爆を結びつけたものも少なくない。原爆投下後を連想させる風景の中で、満面の笑みを浮かべるバービーを、オッペンハイマーが肩に担ぎ上げる画像もその一つ▲「思い出に残る夏になりそう」と、「バービー」の公式アカウントが好意的な返信をした。きのこ雲の下の真実を軽視していると、日本から批判が広がったのは当然だ▲広島、長崎への原爆投下から間もなく78年。悪乗りをしたと反省したのだろう。配給会社が謝罪したが、原爆使用を正当化する言説の根強さを改めて突きつけられた。先のG7広島サミットで、首脳の原爆資料館での様子が米側の求めで非公開にされたこととも無関係でないはず▲「オッペンハイマー」は核実験の再現シーンが評判のようだが、被爆地の悲惨は描かれていないという。観賞しようにも日本公開は決まっていない。

(2023年8月3日朝刊掲載)

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