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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 旧中島本町を愛した人

 5月の広島サミット直前、広島市中区の平和記念公園を、被爆者の浜井徳三さんと歩いた。「わが家があったのはこの辺り。やっぱり落ち着く。この夏も来たいね」。そう聞いたばかりなのに先月、88歳で亡くなった。

 家族4人を奪われた原爆孤児の浜井さん。生家のあった旧中島本町をこよなく愛し、住民の追悼法要の世話役も続けた。その地に立つ各国首脳にも足元に眠る街のことを伝えたいと、病を押して取材に応じてくれた。

 廿日市市の自宅で話を聞き終えた後、「今から行こう」と誘われたのだ。こちらは体調を案じたが、車いすまで用意していると知り、根負けして車を走らせた。良かったのだと、今は思う。あんなに喜ばれたのだから。6日、その姿を公園に捜してしまいそうだ。(編集委員室・田中美千子)

(2023年8月5日朝刊掲載)

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