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社説・コラム

『潮流』 ひろしまウオッチ

■特別論説委員 宮崎智三

 約束を破るのは悪いこと―。そう教えられて子どもは育つ。なのに、教える側の大人が守らないこともある。許し難いのは、国際社会で表明した人権や命に関する約束を破る国の存在だろう。正すのは難しいから、なおさら、しゃくに障る。

 「待った」をかける試みもあった。例えば「ヘルシンキ・ウオッチ」という取り組みである。

 冷戦期の1975年、欧州など35カ国の首脳が安全保障をはじめ広範囲に及ぶヘルシンキ宣言に署名した。そのうち、人権関連の約束を各国が守っているかを調べて報告し、改善を促していたのがヘルシンキ・ウオッチである。成果を上げ、後に組織と対象国を拡大して、今は「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」として活動している。

 ならば、核軍縮に関する約束にも生かせるはずだ、との発想が被爆地で動き出した。核兵器保有国を含む主要国が守っているかどうか、毎年、監視しようというのだ。

 広島県など主催の有識者会議「ひろしまラウンドテーブル」が先月、明らかにした。着想を得たヘルシンキ・ウオッチにちなんで、「ひろしまウオッチ」と名付け、来年から始める、という。被爆地が手がける成績表のようなものだろう。

 似た試みは既にある。広島県主導の組織が毎年、核兵器に関する主要国の取り組みを採点している。ただ、核不拡散や核物質の安全管理も含めた評価。核軍縮に限定していない分、焦点がぼやけ、物足りなかった。

 今度はどうなるか。「核戦争に勝者はいない」と言いつつ、核軍縮に背を向けたり核兵器を使うと脅しをかけたり…。そんな思い上がりを改めさせる評価を被爆地は突き付けねばならない。

(2023年8月5日朝刊掲載)

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