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世界分断 広島から警鐘 被爆78年 あす原爆の日

 被爆地に集った首脳たちは、原爆で奪われたあまたの命に思いをはせたはずだった。だが世界では「核には核」で抗する核抑止論が勢いを増し、持つ国はそのボタンを手放そうとしない。結束のかけ声の下、分断も進む。広島は6日、先進7カ国首脳会議(G7サミット)を経て初の原爆の日を迎える。過ちを繰り返してはいけない―。警鐘を鳴らし続ける。

 5月19日正午過ぎ、雨上がりの平和記念公園(広島市中区)。原爆投下国のバイデン米大統領たちG7首脳9人は中央参道を進み、原爆慰霊碑に花輪を手向けた。慰霊碑を背にした記念撮影の表情は一様に硬かった。

 直前に原爆資料館で見た、あの日の惨禍の一端に心を揺さぶられたのだろうか。そろっての見学時間は約40分。被爆者の遺品が並ぶ本館に行かず、閉ざされた館内での詳しい動向を明かしていない。ただ、公開した芳名録に心情をにじませている。英国のスナク首相は、被爆者の恐怖と苦しみを「どんな言葉を用いても言い表すことができない」とつづった。

 にもかかわらず、首脳たちがその日合意した核軍縮文書「広島ビジョン」は被爆者の願いとは程遠い。広島の名を冠しながら核抑止の役割を正当化した一方、非保有国で支持が広がる核兵器禁止条約は無視した。中国新聞社が今夏、全国の被爆者団体に実施したアンケートでは、サミットで核兵器廃絶へ「成果なし」と捉えた回答が半数を超えている。

 G7側の各国はロシアによるウクライナ侵攻を「核兵器なき世界」の阻害要因に挙げる。プーチン大統領は同盟国ベラルーシへの戦術核配備に着手。対して、長く軍事非同盟を貫いてきた北欧2カ国のうちフィンランドが欧米の核同盟である北大西洋条約機構(NATO)に4月に加わった。スウェーデンの加盟も7月に事実上決まった。

 「現代の世界に核による脅しの居場所はない」。サミットに電撃参加したウクライナのゼレンスキー大統領は資料館の芳名録に残した。ロシアの「核のどう喝」を踏まえての言葉だろう。しかし、有事には「核を使う」とにらみを利かせる核抑止論も脅しに基づく危うい安全保障政策だ。

 世界にそれを気づかせるのがヒロシマの声だ。卒寿を超え、あの日を語る決意をした被爆者がいる。老いた祖父から記憶を受け継ぎ、伝え始めた青年がいる。78年前、1発の原爆がもたらした人間的悲惨の実態を訴え続けたい。まさに核戦争を防ぐ抑止力になるのだから。(和多正憲)

(2023年8月5日朝刊掲載)

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