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平和宣言に広島ビジョン引用 核軍縮 拒む表現も

 広島市の松井一実市長によることしの平和宣言は、5月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)で合意した核軍縮文書「広島ビジョン」を引用したのがポイントの一つだ。核兵器廃絶に条件を付け、核軍縮を拒んできた保有国側の論理を示す表現も含まれる。被爆地が積極評価したと受け止められてはならない。

 注意すべきは「全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現が究極の目標であることが再確認された」という一文だ。全ての者にとっての安全が損なわれない形―。人間的で聞こえは良いが、実際は「核軍縮を進めたくない国家による拒否権だ」と日本軍縮学会初代会長の黒沢満・大阪大名誉教授は断言する。

 広島ビジョンの英語の原文の「all」を外務省の仮訳とそれをなぞった平和宣言は「全ての者」と訳すが、国際的にはむしろ「全ての主権国家」を指す。また「security」を「安全(safety)」としているが、本来は「安全保障」だ。

 引用箇所は「全ての主権国家にとっての安全保障が損なわれない形での核兵器のない世界」と読み替えられる。国の安全保障を損なう恐れがある限り、廃絶は実現できないとの意味になる。

 この表現は1978年の第1回国連軍縮特別総会から微修正しながら使われてきた。2022年の国連総会で日本が主導した核兵器廃絶決議にもあり、核兵器禁止条約の推進国は「核軍縮こそが安全保障を増進させる」などと反発。関連の段落に絞って賛否を問う投票でアイルランドやオーストリアが反対、ニュージーランドやメキシコが棄権した。

 市は平和宣言について「広島ビジョンで示された事実をそのまま引用した」と説明する。核抑止と同様に、条件付きの核兵器廃絶も明確に否定する必要がある。(金崎由美、小林可奈)

(2023年8月7日朝刊掲載)

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