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社説・コラム

『この人』 被爆者のポートレートを撮り続ける写真家 石河真理(いしこまり)さん

 被爆者の素顔にこだわってレンズを向けてきた。核兵器廃絶の先頭に立ち続けた坪井直さん、在日韓国人被爆者の李鍾根(イ・ジョングン)さん、世界で証言を重ねた岡田恵美子さん…。今は亡き3人から、生前の柔らかで、りんとした表情を引き出している。「生い立ちや被爆体験は伝え切れない。でも、向き合った瞬間は残せる」。写真に人としてのありのままの魅力を詰め込む。

 被爆者のポートレートに初めて挑んだのは10年ほど前。広島県被団協の事務所に1年間通い、坪井さんに頼んだ。自身を原爆から生き永らえた「不死鳥」に例える話を聞き、選んだ背景は深紅のボード。「目の前の坪井さんを格好良く撮りたくて」。帽子をかぶり、ちゃめっ気たっぷりにほほ笑む一枚を坪井さんも気に入ったという。2021年に96歳で亡くなった後、追悼展で飾られ、多くの人の目に触れた。

 会社員を経て30歳過ぎにカメラの道に進み、専門学校やプロの下で学んだ。幼少期から広島市内で育った影響もあり、平和を表現する手段を模索。10年に住んでいた米ニューヨークのコンサートで被爆ピアノの音色に触れ「被爆者を撮りたい」との思いを強めた。

 市民団体が20年から発行する、被爆者の体験をまとめた写真集「ヒロシマ、顔」の撮影を担う。型にはまった苦しみや悲しみの表情にフォーカスはしない。「大変な経験をしていても、こんな笑顔を見せられるんだと、子どもたちに伝えたい」。それが自分なりの平和発信だと信じる。西区在住。(太田香)

(2023年8月7日朝刊掲載)

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