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核抑止論 脱却を 被爆78年 広島平和宣言 信頼に基づく安保求める

 広島の街に米軍が原爆を投下して78年の6日、広島市は平和記念公園(中区)で原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を営んだ。5月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)を経て初の原爆の日で、約5万人(市発表)が参列。松井一実市長は平和宣言で、核抑止論からの脱却に向け、為政者へ「信頼関係に基づく安全保障体制の構築へ一歩を」と強く求めた。(和多正憲)

 昨年の2倍の約7千席が並び、被爆者や30道府県の遺族代表、岸田文雄首相たち政府関係者のほか、過去最多の111カ国の代表が出席した。

 松井市長は平和宣言で、サミットの核軍縮文書「広島ビジョン」から「全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界」の実現や核抑止の堅持に触れた箇所を引用。その上で「しかし、核による威嚇を行う為政者がいる現実を踏まえるならば、核抑止論は破綻していると直視し、具体的な取り組みを早急に始める必要がある」と指摘した。

 市民にも核抑止論からの脱却を為政者に促すよう要請。日本政府へは核兵器禁止条約の一刻も早い署名・批准を迫った。核抑止に関しては、広島県の湯崎英彦知事もあいさつで「破綻した場合、全人類の命に責任を負えるのか」と批判した。

 一方、岸田首相はあいさつで、ロシアの「核の威嚇」などを挙げ「『核兵器のない世界』の実現に向け、国際的な機運をいま一度呼び戻すのが重要」と強調。広島ビジョンを成果として示した。

 式典では、この一年に死亡が確認された広島の被爆者5320人を加えた原爆死没者名簿を原爆慰霊碑に奉納。125冊計33万9227人になった。原爆投下時刻の午前8時15分に黙とう。小学6年の代表2人は「平和への誓い」で「被爆者の思いを自分の言葉で伝えていく」と力を込めた。

 この日、中区の気温は今年最高の36・9度を記録。市消防局によると、式典の参列者2人が熱中症の疑いで搬送された。

被服支廠支援を言明 岸田首相

 岸田文雄首相(広島1区)は6日、広島市中区で記者会見し、南区にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」の耐震化工事の財政支援について「建物の活用の方針が定まれば、国の関連事業を通じた支援を速やかに行いたい」と述べた。

 岸田首相は被服支廠の価値について「被爆当時の姿を残す貴重な建物」と言及。全4棟のうち3棟を所有する広島県から早期の国重要文化財指定の要望を受けているが、指定には「活用について地元でよく方針を定めていただくことが必要」との認識を示した。

 保存と活用の検討には、文化庁が専門的見地から助言すると説明。活用の方針が定まれば、国の文化審議会での審議も速やかに進める考えを明らかにした。

 首相の会見を受け、湯崎英彦知事は報道陣の取材に「県として財政支援をお願いしている中で、かなり前進したと受け止める」と歓迎した。活用の方針については「最終的に結論を出すのは時間がかかる。具体性がどれぐらい必要なのかこれから協議していく」と語った。 (河野揚)

(2023年8月7日朝刊掲載)

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