×

ニュース

歌に秘めた「反戦」 絵本に 一青窈さん「ハナミズキ」作画 広島で原画展

安来の画家ねっこかなこさん 詩人ビナードさん橋渡し

 一青窈(ひととよう)さんの歌「ハナミズキ」は、2004年のリリースから20年目となる今も広く愛唱される名曲だ。米国出身で広島市に生活拠点のある詩人アーサー・ビナードさんが歌詞の英訳を手がけたことから、米子市出身で安来市在住の画家ねっこかなこさんの絵との出合いにつながり、一冊の絵本が誕生した。広島市中区上八丁堀のギャラリーGで、絵本の原画展が開かれている。(編集委員・道面雅量)

 昨年秋に出版された絵本「ハナミズキ」(今人舎(いまじんしゃ))。一青さんによる歌詞がそのまま本文となり、ビナードさんの意を尽くした英訳が添えられている。タイトルの英訳は「A Hundred Years」。歌で繰り返されるフレーズ「君と好きな人が/百年続きますように」の「百年」を採った。

 「植物名として直訳すると『Dogwood(犬の木)』。悪い名前ではないけど、タイトルにはね。直訳って危険。言語と言語の間にイコールはないんです」とビナードさん。かなこさんと同ギャラリーで対談し、制作のエピソードを語った。

 ビナードさんは一青さんからの依頼で英訳に挑んだ。一青さんは、ビナードさんが過去に手がけた絵本を愛読し、子どもに読み聞かせてきたという。訳が完成する頃、2人の間で「これも絵本になるよね」「絵に『翻訳』できる人を探そう」と自然に企画が持ち上がった。

 ビナードさんが推したのが、かなこさんだった。中国山地の山懐で、かやぶき屋根の古民家に暮らしながら、手すき和紙で部数限定の絵本を作るなどの創作を続ける。詩的な余韻のある画風にビナードさんが注目して交流があり、一青さんも賛同して作画を頼んだ。

 「ハナミズキ」はカラオケの定番でもある大ヒット曲だが、歌詞の文章はとても謎めいている。難題を任されたかなこさんが最初に描いたのは、「夏は暑過ぎて/僕から気持ちは重すぎて」のフレーズに充てる絵。なぜか、カーキ色の軍装の兵士が現れる。かなこさんは「なぜか、私の住む安来市広瀬町にある陸軍兵士の墓碑が頭に浮かんだんです」と言う。

 一青さんは一連の歌詞を、01年の米中枢同時テロ発生時、ニューヨークにいた友人から送られたメールをきっかけに書いたことが知られている。「果てない波がちゃんと/止まりますように」の一節も。狂気と憎しみ、悲しみの連鎖を止めようという反戦の思いが、かなこさんの絵で形を成していった。ハナミズキの花に重ね、生まれて間もない子どもを思わせる「薄紅色の可愛(かわい)い君」に誓い、託してゆく、世代を超えた願いだ。

 「『百年続きますように』って、個人を超えた人類、生きもの全て、地球に寄せる祈りという気がする」と、かなこさん。絵には花から根っこまでのハナミズキをはじめ、母と子、虫や鳥、馬、魚などが続々と登場し、海山を巡って命の歌を奏でる。「スケールは大きいけれど、抽象的ではない。『君と好きな人』への具体的な祈り」と応じたビナードさん。絵にするという具体化を担った、かなこさんへのねぎらいも込めた。

 展示は13日まで。岩絵の具による原画約20点のほか、かなこさんの版画作品などが並ぶ。

(2023年8月8日朝刊掲載)

年別アーカイブ