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社説・コラム

天風録 『被爆者のいない式典』

 8月6日は登校日―。広島の夏休みについて他県の出身者に話すと驚かれる。原爆の惨禍を継承するため全国の学校でも子どもと考える日にしてもらいたい。しかし長崎原爆の日のきのう、地元では登校日が残念ながら中止された▲台風が長崎県などに近づいていたのだから無理もない。平和祈念式典は営まれたものの、会場は例年の平和公園ではなく屋内に。60年ぶりだという。規模も縮小され、岸田文雄首相や各国駐日大使の参列も見送られた▲平和への誓いを読む代表のほかに被爆者が見当たらないのは残念だった。一般参列を受け付けなかったのは高齢者の安全を考えたようだ。荒天で仕方ないとはいえテレビに映った式典の寂しい様子。「被爆者のいない夏」の先触れを見る思いがした▲平均年齢は85歳を超えた。いずれ被爆者はいなくなってしまう。あの日の惨状をはじめその後の苦しみ、「長崎を最後の被爆地に」という願い…。私たちは後世に伝えていけるだろうか▲式典の児童合唱は中止された。小学生らが犠牲者を悼む「万灯流し」などの行事も。だが学校に登校しなくても、子どもたちは黙とうをささげていた。しっかりと引き継ぐ責任をかみしめる。

(2023年8月10日朝刊掲載)

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