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[こちら編集局です] 式典のハト 減った気が… 実はレース用 愛好家が無償で協力

高齢化や餌代増 飼育に苦労

 8月6日の原爆の日、広島市中区であった平和記念式典で放たれたハトのことをX(旧ツイッター)で投稿した。実はこのハト、レース用の伝書バトだ。今年は250羽。多い時は1300羽だったというから、ずいぶん少なくなった。理由を探ると、飼育の苦労が見えてきた。

 熊野町の山あい。約130羽の伝書バトを飼っている細川清さん(78)を訪ねた。日本伝書鳩協会理事で呉支部の相談役を務めている。「60年余り育ててきたが飼う側もハトももう疲れとるんよ」と寂しそうにつぶやく。

 今年の平和記念式典は16人から計250羽の提供を受けた。この10年で最も多かった2017年の32人計518羽に比べほぼ半減した。

 高齢化で飼い主が減っている。レースは、帰巣本能を生かして指定の場所から鳩舎(きゅうしゃ)まで戻る時間を競う。距離は100キロから千キロまでさまざまあり、遠方に出向いてハトを放す訓練は大変だ。金銭的な負担もある。レース参加費、交通費…。餌代もロシアによるウクライナ侵攻の影響などで高騰。協会広島支部長で小鳥店を営む岩田猛典さん(66)=広島市南区=は「ここ数年で3、4割上がった」と話す。

 鳴き声やふんに伴う近隣からの苦情で飼育を諦める人も。呉支部の会員数はピーク時の約130人から9人に減った。

 ハトも受難の時代だ。タカに襲われるケースが増えているという。「環境が変わって餌のヘビやカエルが減ったのかもしれん」と細川さん。式典に貸し出した18羽も、1羽が帰ってきていない。知人からも同じ話を聞く。メンバーに提供をお願いする立場でもある細川さんは「『無償で貸して』と言いにくくなっている」とこぼす。

 式典の前日、飼い主は会場にハトを運び込む。「ハト番」と呼ばれる市職員が猫などに襲われないよう朝まで交代で見守る。市長の平和宣言の後にハトが放たれる光景は1947年の「第1回平和祭」に始まり、定着した。

 父の代から提供を続ける岩田さんは「広島に暮らす使命感。育てている限り、平和の願いを込めて協力を続けたい」という。毎年当たり前のようにある光景は、ボランティア精神によって支えられている。

≪この記事を書いたのは≫

石井千枝里(デジタルチーム)
 実家は香川県西部の山あい。四国犬とヒツジがいます。鳥は飼っていませんが目の前は養鶏場。

(2023年8月10日朝刊掲載)

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