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NPT準備委 揺らぐ礎石 <下> ヒロシマの訴え

核禁条約意義 米に直言

市長、演説では触れず

 まなざしを核超大国の代表へまっすぐに向けていた。核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第1回準備委員会出席のためオーストリア・ウィーンを訪れた広島市の松井一実市長は2日、シャインマン米大統領特別代表(核不拡散担当)と対面。「NPTと核兵器禁止条約は決して対立しない」と、各国に批准を求める立場から訴えた。

 2021年に発効し、核開発から使用、脅しまでを全面的に違法化した禁止条約。68カ国・地域が批准する中、核保有9カ国は背を向け、「NPTと両立しない」などと主張している。

ちぐはぐさ残す

 シャインマン氏は松井市長の直言を静かに聞いた後、「米国は核軍縮を約束しているが、ロシアや中国は異なる方向に進んでいる」と返した。溝は埋まらなかったが、ヒロシマの市長が、禁止条約の推進を保有国に繰り返し働きかける意義は大きい。

 ただ、松井市長はこの日、各国の政府代表を前にした準備委の演説では禁止条約に触れなかった。終了後、記者団に「核軍縮、不拡散の実践にフォーカスするのが現下の問題と捉えている」と説明。ちぐはぐさを残した。

 広島県の湯崎英彦知事は準備委での発言機会はなかったが、現地入りし、「ひろしまイニシアチブ」の浸透を図った。45年までの核兵器廃絶を目指し、30年に期限を迎える国連の持続可能な開発目標(SDGs)の次の目標に「核兵器のない世界の実現」を組み込むのを目指す。

 1日には準備委の議場がある施設内で、専門家や若者のパネル討議を開いた。市民社会の反応は上々だった。核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)国際コーディネーターのアラン・ウェア氏は、取り組みを評価した上で「実現には核兵器の保有五大国が拒否できないほどに、国家や市民社会の仲間を増やす必要がある」と助言する。

「核同盟」正当化

 広島で被爆した日本被団協代表理事の家島昌志さん(81)=東京=も精力的に活動した。準備委での演説に加え、各国政府の代表とも個別に面会を重ねた。うち英国の代表からは「北大西洋条約機構(NATO)があるからロシアは核兵器を使わない」と伝えられ、「核の軍事同盟」を正当化する厳しい認識を突き付けられたという。

 後日、準備委の討議が始まる前の朝の議場で、家島さんは欧州の若者に囲まれ、交流サイト(SNS)用の証言の撮影に応じていた。「着実にやっていくしかない」

 準備委の議論を記録した慣例の議長総括は一部の国の反発で取り下げられたが、核兵器の非人道性など被爆地の訴えに重なる内容があった。NPT体制が揺らごうとも、核兵器も戦争もない世界を求める被爆者の強い気持ちを国際社会は忘れてはならない。(宮野史康)

(2023年8月16日朝刊掲載)

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