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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 追悼の夏 心に水やりを

 「自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ」。学生時代に読んだ茨木のり子(1926~2006年)の詩の一節だ。怠惰な心に、がつんと響く一喝だった。

 思い出したのには理由がある。先日、被爆者に代わり体験の伝承に取り組む男性(62)を広島市安佐北区で取材した。児童約20人に原爆投下直後の悲劇を伝える際に声が震え、かすれた。上を向く。目尻が光る。「亡くなった子たちと同年代が目の前にいると駄目。想像して泣いちゃうんです」。照れた笑顔とのギャップが印象的だった。

 被爆、被災と広島の夏は追悼の季節だ。犠牲者一人一人の人生を思い、「自分や身近な人だったら…」と想像を巡らせているか。背筋がぴんと伸びたような気がした。心に水やりを怠るまい。「ばかもの」なりに。(安佐北支局・加納優)

(2023年8月16日朝刊掲載)

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