×

ニュース

[NPT準備委] 議長総括取り下げ閉幕【解説】核軍縮への協調見えず

 2026年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた新しい周期に入っても、「核兵器のない世界」に向けた加盟国の協調姿勢は見られなかった。オーストリア・ウィーンで開かれた第1回準備委員会は、ウクライナ情勢を巡る米ロの対立を背景に、核軍縮の議論は低調に終わった。

 第1回準備委は合意文書作りを前提とせず、各国が懸案や優先順位を表明する場に位置付けられている。このため、各国は妥協を避け、自国の主張に力を注いだ。

 ビーナネン議長も10日に総括文書の草案を示した後の討議で時間や回数に制限を設けず各国に意見表明を促した。「こうすることで、26年での合意に向け、どう準備すれば良いかが見えてくる」。フィンランドの老練な外交官の言葉に一定の説得力はある。

 ただ、目立ったのは対立する国家間の溝の深さだ。核兵器禁止条約を巡っては「NPTを補完する」という推進国と、「逆効果だ」とする核兵器保有国に歩み寄る気配はない。ロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発を巡る米欧とロシアの応酬もあった。

 通常は再検討会議の2年後に開く第1回準備委だが、決裂した前回再検討会議から1年で、演説は焼き直しが多い面はある。一方で、核超大国である米ロの関係が悪化したままでは、核軍縮の見通しに悲観的な外交官たちの「諦め」も漂う。

 準備委で被爆者が体験を証言した際、会場は静まり返った。静粛な気持ちの表れと信じたいが、拍手も湧かなかった。被爆者が身をもって訴える「あの日」の惨禍に国際社会は向き合っているのか。世界は今も核兵器使用の脅威にさらされている。手遅れにならないよう、次の準備委を待つまでもなく核軍縮の真剣な取り組みが求められる。(ウィーン宮野史康)

(2023年8月12日朝刊掲載)

年別アーカイブ