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ひろしまオペラルネッサンス「フィガロの結婚」 対立を否定 たどり着いた愛 26・27日 被爆地で向き合う

 ひろしまオペラルネッサンス本公演「フィガロの結婚」が26、27の両日、広島市中区のJMSアステールプラザである。時代を超えて愛されるモーツァルトの名作を芸術監督の岩田達宗が演出し、柴田真郁が指揮する。演奏は広島交響楽団。出演する歌手や支えるスタッフたちは稽古に熱が入る。(渡辺敬子)

 幸せなフィガロとスザンナの結婚式当日、フィガロの主人である伯爵が2人の間に割り込もうとする。癖のある人々を巻き込み、伯爵夫人は大芝居を打つ。葛藤と和解の一日を繰り広げる―。

 岩田がアステールで「フィガロの結婚」を手がけるのは8年ぶり、3回目となる。「深く苦しみ、闘う人間を肉体で力いっぱい表現する。オペラ歌手はアスリートのようなもの。AI(人工知能)にはできない底力を届けたい」と岩田。フィガロ役に芳賀健一と山岸玲音、スザンナ役に田坂蘭子と月村萌華、伯爵夫人に原田幸子と小玉友里花を抜てきした。

 岩田と20年前から現場を共にする柴田は「オペラの師匠のような存在。稽古に入ると毎回驚かされ、新たな発見がある」と信頼を寄せる。「理解と納得を与え、舞台の空気を動かすことができる演出家。2人で初めて取り組む『フィガロ』を楽しみたい」と意気込む。

 柴田と広響は2回目のタッグ。コンサートマスターの蔵川瑠美は「ピットに入るのは非日常でわくわくする。団員には学びの場でもある。指揮者や舞台としっかりコミュニケーションしたい」と抱負を語る。「物語を通じて多彩なキャラクターに触れることで、観客も作曲家の人間性や表現している音楽への理解が深まるはず」と期待する。

 「怒りや悲しみ、孤独が背景にあるコメディー。幸せを明るく届けたい」と岩田。「対立を否定し、愛の大切さにたどり着く。ウクライナとロシアの戦争が続く中、21世紀を生きる者として作品を受け継ぎ、被爆地で向き合う使命感を共有したい」と力を込めた。

 全4幕。イタリア語で字幕付き。午後2時開演。8千~3500円。学生2千円(当日のみ)。中国新聞社などの主催。ひろしまオペラ・音楽推進委員会☎082(244)8000。

歌う喜び 山岸玲音が舞台復帰

 「治療中は歌うことすらできなかった。今は喜びが一番大きい」と話すのは、フィガロ役(27日)の山岸玲音。急性リンパ性白血病と診断され、昨年5月から12月まで入院治療していた。今年3月から少しずつ人前で歌い始め、初の本公演に立つ。「体力の衰えは自覚している。あえて自分の肉体に挑戦したい」

 2011年から参加するひろしまオペラルネッサンス。「広島にいながら第一線の演出家や指揮者、スタッフと仕事をさせてもらった。オペラ歌手として社会との接点をつくり、自信を育ててくれた場所」と感謝する。ただ、昨年の本公演「ドン・ジョヴァンニ」は断念せざるを得なかった。

 フィガロ役を打診されたのは今年4月。「今日を無事に過ごすことが大切で、本公演は無理だと思っていた」と明かす。「スタッフと築いた信頼関係が背中を押した。しんどい時は甘えさせてもらおうと思い切った」

 今は体力向上のため、よく歩き、よく人に会うよう心がける。「若い歌手たちをサポートしながら、チームワークを育み、全員が感動できるフィナーレを迎えたい」

(2023年8月12日朝刊掲載)

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