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社説・コラム

天風録 『広島の新たな伝統』

 78年前の8月15日、昭和天皇の玉音放送で長きにわたった戦争から人々はようやく解放された。その夜、岐阜県郡上市では住民が自然に集まって来て深夜まで踊り明かしたという。昨年、ユネスコの無形文化遺産になった伝統の郡上踊(ぐじょうおどり)である▲戦争中は盆踊りどころではなかったから、待ち焦がれていた住民も多く、おのずから踊りの輪ができたのだろう。もっとも、公式には休止と記録されているそうだ。大石始著「盆踊りの戦後史」(筑摩選書)で知った▲本は、被爆地の盆踊りにも触れている。原爆で壊滅状態になった広島市では敗戦の翌年、戦災供養のため早くも実施された、と。2018年には「ひろしま盆ダンス」の名で72年ぶりに復活し、にぎわったことも紹介している▲その盆ダンスが今年は今夕始まる。コロナ禍による中断などもあり、4年ぶりに以前と同じ都心部で開かれる。踊りや歌、飲食など、お目当ては違えど、楽しみにしている人も多いはず▲今回初めて、広島に住むウクライナ人がステージに立つ。国際色豊かな盆踊りは他にもある。ただ、平和発信がよく似合うのは広島だろう。国内外からの旅行者たちも交え、新たな伝統を刻みつつある。

(2023年8月11日朝刊掲載)

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