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連載・特集

大変じゃったね 広島サミットから3ヵ月 <上>

 広島市で5月19~21日に開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)から3カ月を迎える。首脳たちのおもてなしや関係者のサポートに奔走した人たちは、いま何を思っているだろう。とっておきのエピソードや苦労話を聞きたいと訪ねた。

スナク首相のお好み焼き作り へらさばき「パーフェクト」

 お好み焼き作り体験施設オコスタ(南区)を20日に訪れた英国のスナク首相。手ほどきしたオタフクソース(西区)の堀江公二郎さん(25)は「へらさばきがうまく、手際も良かった」と当日の様子を思い浮かべる。

 スナク氏は終始リラックスしていたが、警備は厳重だった。堀江さんがスナク氏にへらを渡す際も、SP(警護官)たちが「危ないんじゃないか」と会話するのが聞こえてきた。堀江さんは、木の柄を向けて手渡すよう気を配ったという。

 滞在は20分ほど。堀江さんが「グッド」「パーフェクト」など片言の英語で話しかけると、スナク氏は笑顔を返した。鉄板に卵を広げて麺やキャベツなどの具材をのせる場面では、スナク氏が「全部のせるの?」と目を丸くした。

 同じくスタッフの岡本歩実さん(25)は「食材を重ねて焼く特徴と魅力を感じてもらえた」と受け止める。最後に握手を求められたと言い、「ハンドクリームを塗っているかのようなすべすべの手だった」と興奮気味に話す。(余村泰樹)

上田宗箇流の接遇 流祖の逸話再現に奔走

 青々とした竹、咲き誇った花々が一行を歓迎した。各国首脳の配偶者が初日の19日に訪れた西区の上田流和風堂。木の陰から見守っていた山岡晩翠園(西区)専務の山岡裕幸さん(46)は、安堵(あんど)の息をついた。

 「青竹とボタンでお迎えしたい」。茶道上田宗箇(そうこ)流の家元、宗冏(そうけい)さん(78)から話を持ちかけられたのは4月上旬。武将茶人だった流祖が青竹にボタンを飾り、客人をもてなした逸話に着想した。

 「これは大変…」と山岡さんは頭を抱えた。広島県内では園芸用の青竹は職人不足で入手困難。山口県から15本を運んだが本番10日前に変色してしまった。探し回り、新たな竹を間に合わせた。

 ボタンは近辺では花期が終わっていたため遠方から取り寄せたが、気温の上昇で花や葉が弱ってしまった。支柱で支えるなど対処に追われた。

 当日は朝から大雨。地面に掘った穴から懸命に水をかき出し花々を植えた。後日、家元から配偶者たちが喜んでいた様子を聞いた。山岡さんは「報われました」と頰を緩ませる。(西村文)

夫人のアポなし来訪 わらび餅「拡散」販売休止に

 「帰る間際に誰か分かってびっくりした」。尾道市中心部で「甘味茶房ととあん」を営む鈴山秀哉さん(70)と妻智子さん(69)の会話は今も弾む。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領夫人の金建希(キム・ゴンヒ)さんが「アポなし」で来店した。

 15人ほどの「謎の一行」が訪れたのは20日午後4時半ごろ。大量の注文に追われ、金夫人がいると気付いたのは約1時間後の会計時だった。名物の「本わらび餅」を手土産にしたいと求められたが、日持ちが短いため丁重に断ったという。

 周辺に警備の警察官たちが大勢並び、店外は人だかりになった。その様子などが交流サイト(SNS)で拡散され、店は繁盛。本わらび餅は今年分の国産原料の在庫が6月に尽き、販売を休止している。

 秀哉さんは「日本伝統の味に魅力を感じてくれたのがうれしい。良い思い出になった」。智子さんは「なぜうちの店だったのかは謎。誰か教えて」と笑う。(神田真臣)

ビーガン料理 動物性食材抜く新たな挑戦

 中区の「懐石わたなべ」の店主渡辺英雄さん(65)は初日の19日、首脳の配偶者の昼食会で日本料理に加え、動物性食材を使わないビーガン料理を出した。食習慣の変化に応じる新たな挑戦だったと振り返る。

 カツオを使っただしが店の自慢だが、ビーガン料理には使えない。行き着いたのはキノコだった。シイタケとシメジ、白と茶色2種類のエノキを干して冷凍すると、野菜の味を引き立てる驚くほど良いだしが出た。

 本番で提供した「ししとう大豆ミート詰め豆乳煮」を試食させてもらった。魚や肉のだしを使っていないのに深い味わい。シシトウの独特の苦みを際立たせていた。

 当日は「おいしかった」と声をかけてくれる首脳夫人も。「和食の王道を大切にしながら、新時代に見合った誰にも喜んでもらえる料理ができた」と思い返している。(赤江裕紀)

(2023年8月18日朝刊掲載)

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