×

ニュース

原爆開発の地から「生命を尊重する」 カトリック・サンタフェ大司教区 ウェスター大司教 信頼築き核兵器廃絶を

 広島と長崎に投下された原爆の開発拠点を管轄エリアに含む、米国西部ニューメキシコ州のカトリック・サンタフェ大司教区。関連施設で働く信者が多い地域で、ジョン・ウェスター大司教(72)は核軍縮を訴え続けている。6日の原爆の日に合わせて来日。中国新聞のインタビューに応じ、「生命を尊重する」宗教者としての決意を語った。(山田祐)

  ≪サンタフェ大司教区内には、広島と長崎に投下された原爆の開発拠点であるロスアラモス国立研究所がある。この歴史に誇りを持つ人たちが多い地域で、歴代の大司教は核兵器に反対する意思を示してこなかったという。≫
 エリア内にはロスアラモスの他にも核兵器の研究機関があり、大勢のカトリック信徒が働いています。1970~80年代に一部の信徒たちが熱心に核兵器への抗議活動をしましたが、大司教区として許容はしても参加はしてこなかったのです。

 私自身もあまり核兵器について考えたことがなかったのが正直なところです。変わったのは2017年です。休暇を利用して日本を旅した際、2カ所の被爆地に足を運びました。

 広島市の原爆資料館を見学し、被爆の実態を初めて知りました。あの日原爆の光に襲われた子どもたちに、思いをはせました。瞬時に焼かれ、あるいは苦しみながら死んでいった人々のことを考えました。

 私たち信仰を持つ者にとって光とは、イエス・キリストです。でもあの日の光は違いました。それを知った時、原爆が開発された地の宗教者として、核兵器廃絶に向けて動き出そうと決意しました。

 ≪2022年1月、核兵器廃絶を強く訴える書簡を発表した。広島と長崎の原爆被害の惨状をつづった上で、「平和と主を愛するのなら(中略)核廃絶のための新しい道を探さなくてはいけない」と呼びかけた。≫
 残念ながら見える形での変化をもたらすことはできていません。サンタフェの人々の間にあるのは現状を揺るがすようなことをしたくない、という風潮です。核抑止論という偽りの安心の中にいるのです。

 それでも生命の尊さを説くカトリックにとって、核兵器の存在そのものが大変な問題です。

 批判を受けることもあります。銃規制や人工妊娠中絶の是非といった問題の方が重要ではないかと。私にとってはどれも重要で、核軍縮は特に喫緊の問題だと考えます。全ての人間を消滅させる恐れのある、究極的な悪だからです。

 ことし5月にあった先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に合わせ、広島司教区の白浜満司教たちと核軍縮を求める共同の声明を出しました。首脳側から何も返答はありませんでしたが、努力を続けることが大切です。信仰に生きる私たちが、それぞれの国の政府に働きかけ続ける必要があります。

 ≪原爆の日を前に5日、世界平和記念聖堂(広島市中区)で約120人の信徒たちを前に講演。核兵器の存在は「神への冒瀆(ぼうとく)だ」と強調した。≫
 広島と長崎という、原爆によって壊滅的な被害を受けた二つの都市。その原爆が開発されたのが私のサンタフェで、今も核兵器研究に多額の資金がつぎ込まれています。

 今回、多くの核弾頭が配備されているシアトルの大司教も一緒に来日しました。四つの地域の教区が手を携えることで、核軍縮に向けて象徴的な意味合いが生まれると考えます。

 19年に広島を訪れたローマ教皇フランシスコは「核兵器を保有すること自体が倫理に反する」とのメッセージを発信しました。各国の指導者に受け止めてもらいたいと思います。

 キリスト教では隣人を愛しなさい、敵を愛しなさいと教えます。核兵器の存在の裏側にあるのは、恐れです。敵ではなく兄弟姉妹と考えれば、戦争は起こらないはずです。恐れを超え、信頼を築いていかなければいけません。

(2023年8月21日朝刊掲載)

年別アーカイブ