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社説・コラム

社説 日米韓首脳声明 「半島の非核化」諦めるな

 米国のバイデン大統領が、岸田文雄首相、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を招く形で行われた3カ国の首脳会談が今後、重い意味を持つのは間違いない。

 実現した背景としては元徴用工問題など歴史認識の違いがとりあえず棚上げされ、日韓関係が急速に改善したことが挙げられよう。北朝鮮の核・ミサイル開発が加速する中で、日米韓が結束を強化すること自体には異論はない。

 ただ今回の共同声明が従来より大きく踏み出したことは認識しておきたい。目の前の北朝鮮の動きへの対応が軸だった日米韓の安全保障協力を「新たな高みへ引き上げる」として拡大するからだ。

 弾道ミサイルなどに関する情報の共有に加え、サイバー対策や経済安保なども枠組みには含まれる。その上で米国の意向から中国を名指しで批判し、台湾海峡の平和と安定の重要性を明記した。つまり3カ国が中国、さらにはロシアもにらむ安全保障のパートナーだと宣言したに等しい。

 そこには懸念も拭えない。日米韓と中国・ロシア・北朝鮮が対立する構図が固定化して、東アジアの緊張激化にもつながりかねないからだ。

 その点で見過ごせないのは対北朝鮮外交で長くキーワードだった「朝鮮半島の完全な非核化」ではなく「北朝鮮の完全な非核化」に関与する、と共同声明に記したことだ。

 昨年の日米韓首脳会談、この4月の米韓首脳会談までは非核化の対象は「朝鮮半島」としていた。なぜ北朝鮮に限定したか。尹政権の意向を反映したと見ていい。韓国では北に対抗しようと自国の核武装論が公然と語られ始めた。

 北朝鮮には持たせないが、こちらはOK。そんな論法だとすれば相手の核戦力強化を逆にあおりはしないか。さらに突き詰めると米国の「核の傘」に頼るにとどまらず、韓国側の核武装を容認していると読み取れなくもない。

 バイデン氏は一方で、非核化を議論するために前提条件なしで金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記と会談する意向と伝えられる。対話の窓は閉ざさないという外交の原則からしても、こうした表現の変更は得策ではない。

 2018年、トランプ大統領時代の米朝首脳会談で「朝鮮半島の完全な非核化」への努力で合意したのは記憶に新しい。核に固執する北朝鮮の姿勢から停滞し、合意は座礁した。トランプ氏も外交姿勢の甘さが批判された。しかし朝鮮半島全体の非核化の旗を今、降ろす必要はない。

 首脳会談は日米韓の中長期の指針を示す文書も出した。核を巡るこんな言葉が並ぶ。「不拡散の約束を順守」「核兵器のない世界の実現」「核兵器が二度と使用されないよう努力」。岸田氏の意向を踏まえたのかもしれない。

 その目標を朝鮮半島で実現するには、やはり核には核という発想では無理だろう。もちろん北朝鮮情勢の好転は簡単ではない。それでも長崎市長の平和宣言がことしも訴えたように朝鮮半島の非核化、そして北東アジアの非核地帯化が被爆地の願いであることを忘れないでほしい。

(2023年8月22日朝刊掲載)

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