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連載・特集

緑地帯 二口とみゑ 明子さんのピアノと出会って⑥

 2017年、英国在住の作曲家・藤倉大さんが広島交響楽団の委託で「明子さんのピアノ」を題材に新曲を書くことになった。藤倉さんは19年来日し、当時ピアノがあった広島市安佐北区可部まで来られた。3日間、夜遅くまでピアノと向き合い、明子さんの視点から反戦の思いを曲に込めた。「何が起こったのかわからないまま命を奪われた『明子さん』は、世界中にいるはず」と藤倉さんは語った。

 完成したピアノ協奏曲第4番「Akiko’s Piano」は、世界的ピアニストのマルタ・アルゲリッチさんにささげられた。20年8月5、6の両日、コロナ禍で来日がかなわなかったアルゲリッチさんに代わって萩原麻未さんが広響と協演し、世界初演された。

 この前年、私は「明子さんのピアノ」と一緒にピースボートに乗り、釜山とウラジオストクに寄港した。「夢のまた夢」が実現したのだ。広島女学院が所蔵する被爆バイオリンと共演し、船上コンサートを行った。

 その後、中国新聞に、被爆バイオリンの持ち主で広島女学院の音楽教師だったロシア人、セルゲイ・パルチコフさんについての記事が載った。米国在住の孫、アンソニー・ドレイゴさんが広島時代の写真を大量に保管しているという。ドレイゴさんに連絡を取り、送っていただいた「女学生オーケストラ」の写真に―。なんと、パルチコフさんと明子さんが一緒に写っていたのだ! 二つの楽器がつながった瞬間だった。(HOPEプロジェクト代表=広島市)

(2023年8月23日朝刊掲載)

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