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連載・特集

緑地帯 二口とみゑ 明子さんのピアノと出会って⑦

 少しずつ「明子さんのピアノ」の名前が知られるようになってくると、「コンサートに貸してほしい」という声が多く寄せられるようになった。しかし、当時ピアノは広島市内から車で1時間ほどかかる調律師の工房に置かれていた。貸し出すには搬送代がずいぶんかかる。

 さらに100歳近いピアノは、少しずつ「体力」もなくなってきていた。「どこかに安住できる、ついのすみかはないだろうか」と、私は広島市内や近郊を探した。

 2020年7月、明子さんのピアノは、平和記念公園内の被爆建物レストハウスが修復されるのに伴って、2階のカフェに常設展示されることになった。「ここ以上、明子さんのピアノにとってふさわしい場所はない」と涙の出る思いだった。

 レストハウスでは、少しずつ演奏される機会も増えた。若いピアニストたちは、「明子さんのピアノ」からのメッセージを受け止めるのだろう、弾きながら涙ぐむ人も多い。

 昨年11月、マルタ・アルゲリッチさんに7年ぶりにお会いした。横浜市でのコンサートの後、楽屋を訪ねると、「明子のピアノ、覚えているわよ」と笑顔で言われた。そして、「また広島へ行って弾きたい」と。

 世界的ピアニストの心まで動かし、記憶にとどめていく明子さんのピアノ。きっとその音色に、明子さんの「平和への祈り」がこもっているからだと、私は信じている。 (HOPEプロジェクト代表=広島市)

(2023年8月24日朝刊掲載)

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