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「黒い雨」訴訟の軌跡 一冊に 専門家7人 多面的に考察

 原爆が投下された直後に降った「黒い雨」。放射性物質を含む雨を浴びた人たちは健康被害を訴えるが、国が定める区域の外で雨に遭った人々は長く「被爆者」として認められず、司法の場で争ってきた。その訴訟の軌跡や意義が、論考集「原爆『黒い雨』訴訟」(本の泉社)にまとまった。原告に寄り添いつつ訴訟に関わった専門家7人が、人文社会・自然科学それぞれの視点から考察している。

 編著者は、被爆者援護に詳しい田村和之広島大名誉教授(行政法)と、訴訟の弁護団事務局長を務めた竹森雅泰弁護士。大きく3章に分け、第1章では「黒い雨」を巡る社会状況や運動の歴史など背景を研究者が整理している。続く2章では判決の経過や意義を弁護士たちが法的に分析した。

 3章では、黒い雨を巡る科学調査が具体的データとともに解説されている。ことし100歳になる増田善信・元気象庁気象研究所研究室長も、「『黒い雨』再調査と34年後の真実」と題し、執筆。独自の調査を続け、国の定めた降雨地域に長年、異議を唱えてきた経緯や核被害者救済への思いをつづっている。

 田村さんは「専門的で難解な部分もあるが、記録として残すことを大切にした。ぜひ読破してほしい」とする。専門知を集めて「黒い雨」を巡る社会や行政の向き合い方を問うと同時に、78年を経ても終わることのない核被害の深刻さを伝える一冊でもある。A5判、248ページ、3千円。(森田裕美)

(2023年8月28日朝刊掲載)

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