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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 戦後78年 「忘れ物」 今も

 「你好(ニーハオ)」。電話の主は、取材でお世話になった中国残留邦人2世の男性。コロナ禍を挟んで、4年ぶりに会った。随分痩せたな。聞くと大病を経験し、生きた証しを残したいと思い始めたという。

 開拓団として送り出され、終戦時の混乱で旧満州(中国東北部)に取り残された人々。広島出身者も多く、言葉や生活習慣の違いが壁となり帰国後も苦難が続く。そんな歴史を本にしたい、と協力を頼まれた。新聞を繰ると記事は政府が帰国事業を始めた1980~90年代に集中。最近はめっきり少ない。私自身、取材が中断したことをわびた。

 「日本の忘れ物だね」。男性は拙い日本語で言った。被爆者と同じ、戦争という国策の被害者。歴史に埋もれる前に、忘れ物を探す手伝いができたら。戦後78年の夏に改めて思った。(デジタルチーム・栾暁雨)

(2023年9月6日朝刊掲載)

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