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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 心の傷 戦後も深く長く

 ジェットコースターに乗れぬ父親、おばけ屋敷でうずくまり手を合わせる男…。浅田次郎さんの短編「夜の遊園地」には特攻や激戦地から帰還したとおぼしき元兵士が登場する。遊園地という夢の世界で、現実の戦争で負った深い心の傷がよみがえるのだ。戦後の日本にはそんな人があまたいたのだろう。

 旧日本軍兵士とトラウマ(心的外傷)について取材を続けている。先頃参加した学際シンポジウムでは、研究者らが精神医学や社会学など多様な専門分野から発言する一方、兵士だった父や祖父の家族として、体験や苦悩を語る姿が印象的だった。

 ひとたび戦争が起きれば、その影響は遠く先まで及ぶ。子や孫の世代が自らを通して省みることは、現在や未来の戦争を抑止する力につながるはずだ。(平和メディアセンター・森田裕美)

(2023年9月8日朝刊掲載)

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