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大久野島 「負の歴史」にレンズ 広島の竹下さん、写真集 「戦争の加害と被害 伝えたい」

 毒ガス貯蔵庫の跡やツタが生い茂る発電所跡にたたずむウサギ…。カメラマンの竹下和輝さん(35)=広島市=が、旧陸軍の毒ガス製造工場があった大久野島(竹原市)の戦争遺跡をテーマに写真集を刊行した。「戦争が足元にあったことから目を背けたくない」とレンズを向ける。

 毒ガスタンクの台座や慰霊碑を捉えた50枚を載せた。交流サイト(SNS)にあふれるウサギの「映え」写真とは対極にある。毒ガス製造で健康被害を負った工員や動員学徒の痛みと戦争の犯罪性を訴えかける。

 竹下さんは広島市佐伯区出身で、小学校で原爆や大久野島について学んだ。「地図から消された島」で働いた人たちが長年、後遺症に苦しみ続けていることに衝撃を受けた。

 大学に通った福岡では原爆や戦争の話題が少なかった。違和感を抱きながら、防空壕(ごう)や高射砲台、魚雷発射試験場など九州の戦争遺跡を巡った。保存に消極的な行政や戦争体験者の高齢化に危機感を抱き、趣味のカメラで「負の歴史」の記録を始めた。

 2016年に福岡で写真スタジオを開き、今年からは大久野島に通う。親戚が戦中、毒ガス製造による気管支の不調を訴えていたと父親から聞いたことも背中を押した。8月に広島市に戻り、県内での移住を検討している。戦争遺跡の撮影はライフワークにするつもりだ。「この島は戦争の加害と被害の両面を学べる場所。写真という『言語』で若い世代や海外の人にも伝えたい」

 写真集のタイトルはウサギを従えた女神の名にちなみ「Eostre(エオストレ)」とした。自費出版で300部。4400円(税込み)。購入はhttps://ktphotos.base.shop/items/77926636(栾暁雨)

(2023年9月14日朝刊掲載)

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